|
1991年4月,東京都八丈島の1小学校において,わが国では第4例目と思われるC群ロタウイルスによる集団下痢症があったので,その概要を報告する。
本事例は4月25日,八丈島町立病院から1小学校において食中毒様症状を訴える児童が多いとの届出があったことに端を発する。
調査の結果,患者は主に1年生と2年生を中心に合計51名に達していることが確認された。患者の発生日は1・2年生では明らかにすることができたが,他の学年での患者発生状況はほとんど不明であった。しかし,この時期の欠席者のなかで特に胃腸炎症状で欠席した児童を拾い上げてみると,図に示したように,1・2・3年生では4月15日頃から欠席がみられ,23日から25日にかけて集中しており,また,高学年では4月23日頃から欠席者があり30日から5月2日に多数の欠席者がみられた。これらのことから本事例は少なくとも,4月下旬から5月上旬までの約20日間にわたって流行があったと推定された。
患者の症状は,下痢が全員にみられ,この他腹痛が68%,嘔吐56%,および中程度の発熱が56%であった。その他食欲不振,頭痛を伴った患者も一部みられた。
食中毒の疑いとして,患者糞便の細菌学的検査が実施された。しかし,既知病原菌はすべて陰性であった。さらにウイルス分離試験およびA群ロタウイルス抗原検出もすべて陰性であったが,電子顕微鏡によるウイルス検索で11例中6例にロタウイルス様粒子が観察された。そこで,この検出された粒子について,愛媛衛研から分与されたC群ロタウイルスに対する抗血清を用いた免疫電子顕微鏡法による検査を実施した結果,いずれも電子顕微鏡下で粒子への抗体付着が認められた。また,ウイルス粒子から抽出した核酸のPAGE(RNAPAGE)の結果も,第2分節が第1分節に接近していること,第7分節が第6分節に接近している点,および第11分節の移動度が比較的大きいなど,C群ロタウイルスに特有な泳動パターンを示すことが確認された。さらに,米国CDCにELISA法による確認を依頼した結果,11例中8例が陽性と報告された。
以上の結果から,この事件はC群ロタウイルスによる集団下痢症であることが確認された。
本事件は,給食を原因食品とする食中毒事件ではないかとして調査がなされたが,同じ給食を食べていた他校の生徒の中に患者発生がないこと,また,前述の様に患者発生が4月下旬から5月上旬にかけて比較的長期間にわたっていることなどから,少なくとも学校給食が原因であった可能性は否定できよう。残念ながら本事件の原因を究明することはできなかった。
東京都立衛生研究所微生物部 関根 整治,林 志直,安東 民衛,太田 建爾
胃腸炎症状を呈した生徒の欠席状況
|