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Vol.13 (1992/8[150])

<国内情報>
感染症サーベイランスにおける麻疹ウイルスの分離−宮崎県


 麻疹は通常臨床症状から容易に診断でき,従来の方法ではウイルス分離に時間がかかり,分離率も低いことから,現在,感染症サーベイランス事業において病原体検出の対象疾患となっていない。しかしながら,1992年3月以降,本県の検査定点,あるいは他の機関の医師から,「ワクチン接種歴があるにもかかわらず麻疹様症状を呈する患者や,風疹あるいは他の疾患との鑑別がつきにくい症例がある」との情報が得られたため,ウイルス分離を試みたところ,7名の患者からウイルスが分離できたので報告する。

 方法

 1)検体:分離材料として3月初旬から6月初旬までに麻疹様疾患と診断された患者10名および,麻疹様の症状を示すが診断の困難であった患者1名の計11名から採取された咽頭ぬぐい液11検体を用いた。なお,患者のワクチン歴は可能な限り記載してもらった。

 2)細胞:当初,従来通りVero細胞を用いて分離を試みたがCPEの出現が遅く,また,継代中にCPEが消失する例がみられたため,国立予研の小船富美夫先生より分与頂いたB95a細胞を用いて再度分離を試みた。

 3)分離方法:増殖培地(10%FCS加PRMI1640培地)で増殖させたB95a細胞を常法どおり96穴マイクロプレートに播き単層細胞になったところで培地を除き,検体を20μlずつ接種後,37℃30分間吸着させ,維持培地(5%FCS加RPMI1640培地)を100μl加え37℃5%CO2インキュベーター内で培養した。なお,B95a細胞は強めのピペッティングで容易に分散できるため細胞の継代時にトリプシンを使用せずに済んだ。

 4)判定:麻疹ウイルスに特有のCPE(合胞体)を示したものを分離陽性(+)とし,デンカ生研の麻疹ウイルスFA試薬を用いて確認した。なお,盲継代を2回行ってもCPEの出現しなかったものは分離陰性とした。

 結果

 表に示すとおり11名の患者中7名から麻疹ウイルスが分離され,うち3名はワクチン歴のはっきりした患者からで,1名は他の疾患と鑑別がつきにくい例であり,ウイルスを分離できた患者の年齢層には幅があった。また,B95a細胞では,早いものは接種後2日目で,遅いものでも4日目でCPEを確認でき,Vero細胞と比べて容易にウイルスを分離することができた。今回,患者の血清を入手できず,抗体の確認をしていないが,ワクチン歴のある患者でウイルスが分離されていることなどから,今後,分離ウイルスの性状等を様々な角度から検討していく予定である。なお,サーベイランス事業の病原体検索において,臨床的に紛らわしい場合は,病原体検出対象以外の疾病についても積極的にウイルスの検出を行うことが地研と定点との連携を強めていく上で重要と思われた。



宮崎県衛生環境研究所 吉野 修司,大浦 恭子,山本 正悟,八木 利喬


宮崎県における麻疹ウイルスの分離状況





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