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1992年4月21日,八戸市内の仕出し店(A社)の昼食弁当(オムレツ)によると推定されるSalmonella Enteritidis(S.E)集団食中毒が発生し,その原材料である鶏卵から高頻度にS.Eが検出されたのでその概要を報告する。
4月23日,福島県いわき市の医師から八戸保健所に,八戸市からの出張帰りの会社員グループ9名のうち1名が水様性下痢,腹痛等の症状を訴えて受診しているとの連絡があった。保健所の調査により,グループの他の7名も同様の症状で勤務先を休んでいることがわかった。共通食品は4月20日に八戸市内のA社で調製された昼食の弁当であったことから,A社弁当の喫食調査を行ったところ,喫食者は事務所54ヵ所の合計198名に及び,そのうち下痢,腹痛等の食中毒様症状を有したものが119名(発症率60%)いることが判明した。ただし,届け出患者数はわずか11名だけであった。
喫食調査の結果,弁当に使用されたオムレツは,4月19日午後4時から午後6時にかけて八戸市内のB商店で調製され,午後8時にA社に搬入後冷蔵され,翌20日午前8時から弁当への盛り付けが行われて午前10時に注文先へ配送された。調製された弁当数は265個で,このうち254個が販売された。また,検食用に残された1個は,72時間の保存期間を待たず24時間後すでに廃棄されていた。
細菌学的検査の結果(表1),発病者11名中6名,届け出患者3名中3名,調理従事者7名中1名の便からS.Eが分離され,A社の営業施設の排水路汚泥からも同一菌が分離された。分離S.Eのファージ型はすべて1型であり,薬剤感受性試験ではすべての菌株がABPC,KM,GM,TC,CET,CP,NAに感受性,SM,SAに耐性であった。また,届け出患者のうち3名について分離S.Eの加熱抗原に対する血中抗体価を調べたところ,2名に有意上昇(両者とも急性期<10倍,回復期80倍)が認められた。
S.Eの汚染源調査として,B商店で仕入れていたC養鶏所産の鶏卵について2回に分けてS.E分離試験を行った。その結果,第1回目の鶏卵100個の調査では卵殻を除いた部位10検体(鶏卵10個をプールして1検体)中1検体から,第2回目の鶏卵130個の調査では卵殻を含む1個から,それぞれ93MPN/100ml,6×102/mlのS.Eが分離された(表2)。そのファージ型は,第1回目の検体から分離した6株中1株が患者由来のものと同様の1型,他の5株は7a型であり,第2回目の検体から分離した6株はすべて7a型であった。これらS.Eの薬剤感受性は患者由来株と同一であったが,第1回目に分離された1株からKM耐性株が分離された。
以上のように,鶏卵から高い頻度でS.Eが分離され,しかもその1株が患者由来株と同一のファージ型1型を示したことから,本事例は鶏卵を汚染源とする可能性が推定された。しかしながら,鶏卵中にはファージ型1よりも7a型が多かったにもかかわらず,なぜ1型菌だけが感染に関与したのかについては不明であった。本事例の前後に,同地域周辺には散発的にS.Eによる感染例が見受けられていたので,現在その分離菌株を収集し,本事例との関係を調査中である。
最後に,分離S.Eのファージ型別試験の実施とS.Eの疫学についてご教示いただいた国立予防衛生研究所の中村明子博士並びに本事例の疫学情報の提供をいただいた八戸保健所環境衛生課の担当各位に深く感謝いたします。
青森県環境保健センター 大友 良光,豊川 安延
表1.食中毒関連検体からのSalmonella Enteritidis(S.E)分離成績
表2.鶏卵からのSalmonella Enteritidis(S.E)分離成績
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