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Vol.14 (1993/1[155])

<国内情報>
Salmonella Enteritidisのファージ型別による疫学解析上の問題点


 S.Enteritidis(.E)による集団食中毒が急増しているが,その疫学解析にファージ型別が有用であることは,多くの事例で確認されている。

 今回経験した2事例では,それぞれ複数のファージ型が検出された。その理由の一つに,ルチーンの作業で複数の集落を釣菌するか否かが関係すると思われるので報告する。

 事例1:平成2(1990)年10月4日に飲食店で,焼めしおよびとりから揚が原因と思われる事例で,喫食者数691名,患者数94名(死者0)であった。患者大便8名,従業員1名,食品2件およびフキトリ1件から分離された.Eのファージ型は34型が5(患者3,従業員1,フキトリ1),4型が1(食品)および型別不能が1株(食品)であった。

 事例2:平成4(1992)年8月11日に,給食弁当(幕の内)が原因と思われる事例で,喫食者128名,患者数19名(死者0)であった。患者大便5名から分離された.Eのファージ型は8型が3,34型が2株であった。

 考察:事例1では,従業員も患者とみなした場合,ファージ型34が主役と思われるが,フキトリからも同型が検出されたものの,推定原因食品からは4型または型別不能が検出された。疫学調査では明らかに原因と思われる食品からは患者と同一型が検出されなかったことになる。

 事例2では,患者由来の5株のファージ型が3:2に分かれ,明らかに複数型の混合感染であったことがうかがえる。

 以上の2事例の経験から,流行に関連したファージ型を同定するための留意事項として次の点があげられる。1)分離培養の平板からできるだけ多くの集落(ルーチンでは5株が限度と思われるが)を釣菌する。すなわち,上記事例1では食品,調理施設などの汚染が複数型である可能性が高かったにもかかわらず,食品では分離株が少なかったために,主要ファージ型が検出されなかった。2)集団事例で分離した一部の菌株を代表株とせず,できるだけ多くの菌株をファージ型別に供する。たとえば事例1では,患者由来株37株中3株のみをファージ型別したが,より多くの株をファージ型別すれば34型以外も検出された可能性も残る。3)ファージ型以外の疫学マーカー,すなわちプラスミドプロファイル,抗生剤感受性パターンなど,一般の検査室で行える解析をスクリーニングして行うこと。

 以上述べた事例の解析は決してファージ型別の有用性を否定するものでない。最近わが国の流行をみても,4型,34型および8型の主要ファージ型のほかに,1型の急激な増加も観察される。すなわち,ニワトリの環境では濃厚,かつ複雑な感染が起こっていると推測される。ファージ型別の有用性を強調する意味から,検査に携わる者に反省を求める事例であったと認識している。



神戸市環境保健研究所 村瀬 稔,仲西 寿男
国立予防衛生研究所 中村 明子





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