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1991年4月と8月に静岡県内において,ST産生大腸菌による2例の食中毒が発生した。これら大腸菌の生化学的性状は同一で,血清型はO8:K57:H19であった。珍しい事例なので事件の概要と菌の検出状況を紹介する。
A事例:1991年4月N市内のN社が製造した仕出し弁当を食べた事業所従業員が下痢,腹痛等の食中毒症状を呈した。所轄保健所の調査によれば,この事業所では15日の昼食にN社製の「仕出し弁当」を取り寄せ,これを喫食した1,804人中180人が発症した。
症状は下痢98.3%,腹痛90.0%を主徴として,悪寒40.0%,頭痛37.2%などが見られ,発熱は33.3%で平均37.8℃であった。潜伏時間は43時間42分と推定された。患者糞便13検体中11検体から同一性状を有する大腸菌が優勢に検出されたが,市販のO血清に凝集せず,また,その他の食中毒起因菌も検出されなかった。
B事例:同年8月18日S市内民宿「I屋」に宿泊した37人中14人が下痢,腹痛(共に71.4%),発熱(50%で平均37.8℃)を主徴として発症,食中毒と診断された。患者糞便11検体中7検体から大腸菌が優勢に分離され,A事例と同様,これらは市販のO血清に凝集しなかったが,A事例の分離株で作製した血清に凝集した。原因食品として16日の夕食が疑われたが,特定できなかった。潜伏時間は29時間54分と推定された。
分離大腸菌の性状
1)両事例の患者から分離した大腸菌O抗原は既知の型に一致しなかったため,国立予防衛生研究所を通じてWHO大腸菌血清型別センター(コペンハーゲン)に型別を依頼した結果,O8:K57:H19との情報を得た。
2)PCR法により,ST,LT,VTを検査したところ,供試した両事例の分離大腸菌(A事例11株,B事例7株)のすべてにSTに一致したバンドが認められ,また,コリテストEIA(デンカ)でもST産生性が確認された。
3)両事例から分離された18株はプラスミドパターンが一致し,同一派生株に由来する可能性が示唆されたが,食品等の残品がなく,また,施設のふきとり検査からも同一菌が分離できなかったため,感染源を特定することはできなかった。
静岡県衛生環境センター
増田 高志,三輪 好伸,森 健,大畑 克彦,内藤 満,赤羽 荘資
国立予防衛生研究所 田村 和満
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