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感染症サーベイランスにおける溶連菌感染症は,主としてA群レンサ球菌による咽頭炎,アンギーナを対象としている。患者定点医療機関からの患者発生報告数は,1991年は66,445,92年は68,372と,最近10年間では上位の流行となった。定点当たり年間報告数は,1982〜85年の25〜28人から86〜87年には21人に減少したが,88年22.9人,89年24.7人,90年24.9人と推移し,91年および92年はそれぞれ27.6人,28.3人とサーベイランス開始当時のレベルに戻った。ブロック別発生では,北海道,東北など北日本で多く,九州・沖縄で少ない傾向が続いていたが,1991年および1992年は前年にくらべ中国・四国,九州・沖縄での発生が増加した。発生パターンは1〜3月,5〜7月に低い山,10〜12月に高い山の三峰性が例年繰り返されている。1991年および1992年は1〜3月の山が高かった(図1)。
1992年の患者の年齢分布は,5〜9歳55%,4歳18%,3歳10%で,例年通り患者の80%以上が3〜9歳で占められた(図2)。
病原微生物検出情報では1990年1月以降,医療機関からは検体材料別に病原菌検出報告を収集している。1991年1月〜1992年11月の報告によると,A群レンサ球菌は約90%が咽頭および鼻咽喉から分離された。月別検出数は患者発生パターンと同様三峰性を示した。一方,喀痰・気管吸引液・下気道からのA群レンサ球菌の検出数に季節性はみられなかった(表1)。
1986〜1992年11月の地研・保健所集計によるA群レンサ球菌の月別検出状況と,1991年末までのT型別検出状況を図3に示した。1986年は2,124株,87年1,904株,88年1,837株,89年1,622株,90年1,324株,91年1,677株についてT型別が実施された。この期間,わが国で上位に検出された血清型はT−1型,T−4型およびT−12型であった。1986年に検出数の多かったT−3型が翌年に急減したこと,1990〜91年にT−4型およびT−12型が急増したことが注目された。1991年のT−4型の年間検出数は597で1986年以降最も多かった。また,1986年以降減少傾向にあったT−12型が1990年364株,91年427株と1989年(192株)にくらべ倍増し,本菌型による流行の再燃が懸念された。しかし,これまでに得られた情報によると,1992年のT−12型の検出率は従来のレベルに戻ったことがうかがわれる(本号国内情報参照)。
WHOレンサ球菌国内レファレンスセンター(神奈川県衛生研究所)のまとめによるA群レンサ球菌の血清型と疾病との関係を表2に示した。溶連菌感染症とされた例ではT−4型が高率に検出されたのに対し,咽頭炎,気管支炎の例ではT−1型とT−12型が高率に検出された。
東京都立衛生研究所で実施された薬剤感受性試験成績によると(図4),1991年に呼吸器系疾患患者から分離されたA群レンサ球菌1,367株中919株(67%)がテトラサイクリン(TC),クロラムフェニコール(CP),マクロライド系のオレアンドマイシン(OL)のすべてに感受性,445株(33%)がTCのみに,2株がTC・OLに,1株がTC・CPに耐性であった。血清型との関連ではT−4型の94%,T−12型の8.7%,T−1型の1.4%がTC耐性であった。また,TC・OL耐性の2株は型別不能,TC・CP耐性の1株はT−1型であった(柏木ら,第25回レンサ球菌感染症研究会,1992)。1990年および1991年に増加したT−12型は大部分が検査した薬剤に対し感受性であり,多剤耐性株の増加傾向は認められていない。
図1.溶連菌感染症患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図2.溶連菌感染症患者年齢分布(感染症サーベイランス情報)
表1.A群レンサ球菌の検体材料別月別検出状況(医療機関集計)
図3.A群レンサ球菌月別検出状況 1986年1月〜1992年11月(地研・保健所集計)
図4.A群レンサ球菌の耐性パターンの年次推移,1979〜1991年(第25回レンサ球菌感染症研究会,1992年,東京都立衛生研究所より)
表2.疾病とA群レンサ球菌(血清型)との関係(1991年)
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