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カキ貝などの魚介類が原因食品と推定される下痢症の場合,小型球形ウイルス(SRSV)が病原体として検出されることがしばしばある。食品の摂取によると推定されるが,このような魚介類とは関係しないと思われる集団嘔吐・下痢症の発症者および非発症者の糞便から電顕でSRSVが検出された。この食中毒様事件の概要は次のとおりである。
1992年12月2日午前9時20分頃,T市児童福祉課から戸田・蕨保健所にT市立N保育園で多数の園児・職員が下痢・嘔吐などの症状を呈し欠席しているとの電話連絡があった。そこで食中毒ならびに伝染病の両方を疑い同保健所により調査が行われた。その結果,11月30日から12月4日にかけて全園児の50.0%(29/58)が発症しており,そのうち79%(23/29)が12月2日に発症した。また,職員は12月1日に5名,12月2日に3名,計8名(8/18)が発症した。園児の症状は聞き取り調査のため明確でないが嘔吐86%,下痢55%であった。職員の症状は嘔吐100%,吐気100%,下痢87.5%,腹痛62.5%,発熱50%であった。園児および職員に提供された保育園の給食の献立(園で調理)は11月28日(土)10時:牛乳,昼食:ご飯,ミックスベジタブル入りスクランブルエッグ,コンソメスープ,11月30日(月)10時:牛乳,昼食:ご飯,酢豚風煮物,青菜と卵のあえ物,味噌汁,3時のおやつ:牛乳,バナナブレッド,12月1日(火)10時:牛乳,昼食:食パン,クリームシチュー,卵サラダ,ボイルウインナー,3時のおやつ:ジュース,菓子,柿であったことなどが明らかになった。
細菌学的検査の結果,保育園給食の検食,給食施設のふきとり検体,発症者ならびに非発症者の糞便いずれからも食中毒起因菌等の病原菌は検出されなかったが,園児発症者3検体および職員発症者1検体,職員非発症者1検体,計5検体の糞便について電顕でウイルスを検索したところ,園児:発症者1,職員:非発症者1,計2検体からSRSVを検出した。なお,職員発症者7検体の咽頭拭い液からのウイルス分離を試みたが,いずれも検出されなかった。
園児の発病日時に多少のばらつきがみられたが,園児・職員とも12月1日から2日に発症日時が比較的集中していたことなどから保育園の給食が一因である可能性が示唆された。
埼玉県衛生研究所
内田 和江,篠原 美千代,大塚 孝康,後藤 敦
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