HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.14 (1993/3[157])

<国内情報>
血清型O157:H7 Vero毒素産生性大腸菌による集団下痢症−佐賀県


 1992年4月22日から5月18日にかけて,佐賀県唐津市内の保育園で血清型O157:H7 Vero毒素産生性大腸菌(以下,VTEC)による集団下痢症が発生した。有症者11名で,全員が下痢(血便7名)を呈した。発熱(38℃以上)2名,HUSの続発2名,うち1名は痙攣および意識障害を伴った。

 5月6日,当衛生研究所に唐津赤十字病院の小児科から血便患者から分離されたO157大腸菌の毒素産生試験の依頼があった。この日までに同一保育園の園児8名が下痢や血便で治療を受けており,うち5名が入院していた。

 7日,唐津保健所は食中毒の疑いで調査を始め,8日,民間の検査センターで分離されていたO157大腸菌2株と園児・職員および家族の便98検体が当初に搬入された。

 培養にはソルビット・マッコンキー培地とDHL培地とを併用し,Vero毒素産生試験は迅速報告のためにPCR法(Kauch & Meyer法)を実施した。9日に菌株のPCR法陽性が判明,10日には便3検体からO157大腸菌を検出し,PCR法陽性も確認した(7日後,Vero細胞CPEを確認)。

 検査結果により保健所は感染防止のために12日からの保育園の休園を指導し,また,6月30日までに計4回の集団検便を実施した。

 検便の結果,155名481検体から16株のVTECが分離され,生化学的性状・毒素の型別(VT1&2)・薬剤感受性試験(KB法にて12薬剤を実施)はすべて同じパターンを示した。一方,検食,飲用水(園・発症者の家庭),園内のふきとりからは食中毒菌は検出されなかった。

 発症状況をみると,園内6クラス(0〜5歳児組90名)のうち1歳児組(12名)に初発者を含む7名,他の組にはそれらの兄・姉4名であった。VTEC検出は1歳児組に8名(有症者6名),園内ではそれらの姉3名(有症者)と2歳児および保母それぞれ1名,園外では1歳児組の2家族(母親・兄)3名が陽性であった。

 図に発症とVTEC検出の経過を表したが,菌検出は発症前4日から後8日に及んだ。HUS1例では発症後38日目(検便3回目)に初めて検出されたが,保菌が続いていたのか再感染したのかは不明である。

 今回の集団下痢症では,@発症および菌検出について通常の食中毒とは異なり1カ月以上にわたってみられたこと,A発症あるいは菌検出の18名のうち16名(89%)が1歳児組に関係すること,B園内のオムツ洗濯場がかなり不潔で,1歳児組の教室に汚物処理の洗い場があるなど,園の汚物処理面での衛生意識の低さ等から,感染経路を断定できなかったが,「人から人への感染」が推測された。

 本事例では,ただちに実施したPCR法によるVTECの確認がその後の防疫措置や治療方針を決定づけた。探知後3名の患者発生にとどまったのはPCR法の迅速かつ的確な診断によるものだと,我々はその有用性を確信した。

 また,VTECは行政措置上食中毒菌として指定されているが,潜伏時間の長さや今回経験した保菌状況から,今後,防疫上あるいは菌の検索上長期間の対応が必要と考える。



佐賀県衛生研究所 出 美規子,森屋 一雄,笹尾 克彦,土田 龍馬
唐津保健所 加茂 新八郎,了戒 寛,諏訪 與一,益本 義久
唐津赤十字病院 藤岡 勝慶


図.発症者とVTEC検出までの経過





前へ 次へ
copyright
IASR