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Vol.14 (1993/5[159])

<国内情報>
パルスフィールド電気泳動法によるコレラ菌の型別


 わが国では,この15年,年間26〜111名のコレラ患者が報告されている。多くは海外からの持ち込みであるが,国内感染例も少なくない。これまで集団発生では,分離菌について,血清学的性状,生化学的性状,ファージ感受性,薬剤感受性等が調べられてきた。しかし,これらの性状では,各地で菌が分離された場合,菌相互の親子関係を推測するには限界があった。近年,DNAに関する技術が発達し,染色体DNA制限酵素切断パターン,リボタイピング,ハイブリダイゼーション等が細菌の型別に利用されるようになった(遺伝子診断と分子疫学,日本臨床,1992年)。これらの内で,パルスフィールド電気泳動法を用いた染色体DNA制限酵素切断パターンによる型別法は実施が比較的容易であり,その判定は,生ずるDNA断片が少ないことから通常の電気泳動法によるDNA切断パターンよりやさしい。我々は本法をコレラ菌の型別に利用するための検討を行った。

 泳動試料はYanら(JID,163:1068-1072,1991),Grothuesら(J.Clin.Microbiol. 26:1973-1977,1988)の報告を参考にして調製し,電気泳動装置はBio-Rad社製,CHEF DRUを使用した。最初に,方法について検討すると,制限酵素はNotTあるいはSfiT(経済性と扱いやすさでは,前者が良い)が適し,泳動条件は,電圧150V,温度14℃,スイッチタイム3から40〜70秒で,24時間が良かった。図1は集団発生2事例由来2株,散発例由来2株,計4株のNotT処理後の泳動パターンを示す。4株は100〜450Kbの範囲のパターンの差によって区別される。

 1992年,関東一円で発生したあおやぎが疑われた事例由来38株はすべて同じパターンを示したので,我々は本法がコレラ菌の疫学的追究手段として利用できるものと考えて,以下,全国各地で分離され,予研へ送付された菌株を調べた。その結果,NotT使用の場合,小川型180株は32型以上,稲葉型105株は26型以上に分けられること,1980年の東京都,1990年の名古屋NTT,1992〜93年の南米ペルー,ボリビア,各集団発生原因菌は同一の型であること,国内河川由来菌の型はヒト由来菌の型と異なること,1991年のあおやぎが疑われた集団例分離菌の型は,当時のインドネシア旅行後の患者分離菌の型とのみ一致すること等が明らかになった。

 集団発生で,少数の異なるパターンを示す株があった場合,変異株とするか異質株とするかなど,解決すべき問題は残っているが,本法は,今後コレラ菌の有効な疫学的追究手段になるものと考えられる。



富山県衛生研究所 刑部 陽宅,細呂木 志保,児玉 博英
国立予防衛生研究所 島田 俊雄


図1.コレラ菌染色体DNA,NotT処理後のパルスフィールド電気泳動像





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