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1992/93年,大阪府下においても12月から3月にわたりインフルエンザの流行があり,流行因子としてAH3型約200株,B型約100株が同定され,分離状況からAH3型を主体にB型が混在,学級閉鎖等も2,000施設を超える大流行であった。すでに,1989/90シーズン,インフルエンザウイルス感染に起因する脳症の発生を報告した1)が,本シーズンにおいても,分離陽性検体例についての臨床症状は,発熱,上気道炎,下気道炎にとどまらず,熱性痙攣,脳症,無菌性髄膜炎,発疹症,筋炎等多彩であった。なかでも,B型ウイルス感染に起因し,肝機能障害を伴った4歳児は死亡した。また,AH3型ウイルス感染に付随して肝機能障害が認められた症例は回復した。以下にこれらの症例の詳細を報告する。
症例1:4歳 男
分離ウイルス:インフルエンザB型ウイルス
1993.1.5 発熱(近医受診)
1.7 発熱 41℃
痙攣,嘔吐頻回,意識傾眠,入院
検体採取(鼻汁,気管吸引物)
1.8 嘔吐後,呼吸停止
胃内,鼻腔出血
1.9 死亡
1月8日における検査所見で血小板の減少,GOT:77→>851,GPT:25>1178等,血清トランスアミラーゼ価の急激な上昇が認められた。なお,脳のCT,肝臓組織の検査は実施されなかったので,肝脂肪変性の有無は不明である。分離されたウイルスのHA抗原性は,B/バンコク/163/90に類似していた。
症例2:5歳 男
分離ウイルス:インフルエンザAH3型
1993.1.20 発熱
1.21 救急受診,入院
検体採取(鼻汁,気管内吸引物)
多臓器不全
DIC,肝機能障害,肺出血
意識障害
1.24 意識回復
2月初旬 知能障害,運動障害残る
1月21日,22日,25日における検査所見では,GOT:63→7227→653,GPT:27→3752→1910と急激な肝機能障害が認められたが対処が早く,回復したと考えられる。
以上であるが,インフルエンザが最もありふれた疾患であるだけに,多彩な臨床像をとることを配慮すべき例として報告する。
検体および検査成績をご提示いただきました大阪市立桃山病院感染症センター小児科の諸先生に深謝いたします。
1)臨床とウイルス 20(1),13〜18,1992
大阪府立公衆衛生研究所ウイルス課 前田 章子,加瀬 哲男,峯川 好一
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