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Vol.14 (1993/7[161])

<国内情報>
1993〜94年に使用するインフルエンザワクチン株の決定理由報告


《品質管理上のインフルエンザワクチン》

 ワクチン株の決定は,国立予防衛生研究所の流行予測情報を受けて厚生省薬務局が決定するという行政上の流れに沿って実施される。

 今般平成5年度に使用するインフルエンザHAワクチン製造株およびウイルス量の決定にあたり,厚生省薬務局長より薬発第316号(平成5年3月25日)を以て依頼があったので,下記の通り報告する。



株決定理由

1.A/ソ連型:A/山形/32/89(H11

 我が国におけるAソ連型ウイルスは1988/89年と1991/92年のシーズンの流行を支配したが,この2つのシーズンに分離された流行株はいずれも1988/89年の流行で主流を占めたA/山形/32/89株と同じ抗原性を有し,遺伝学的にもこのことが立証された。1992/93シーズンの我が国の流行ではA/ソ連型ウイルスは確認されなかったが,海外,特にヨーロッパ,アメリカでA/ソ連型ウイルスが分離され,抗原分析の結果は我が国のワクチン株であるA/山形/32/89(H11)株に極めて類似しているという情報がもたらされた。すでに述べたように,我が国の1992/93年のシーズンにヒトではA/ソ連型ウイルスは検知されなかったが,1992年の夏以降に北海道のブタに潜んでいることが明らかになり,要注意ウイルスと判断した。仮に,このウイルスが我が国で1993/94シーズンに流行することがあってもA/山形/32/89で製造されたワクチンで十分防御できると予想され,引き続き平成5年度のワクチン製造株とし,免疫応答が期待できるので含有量を250CCA/mlとした。

2.A/ホンコン型:A/北九州/159/93(H32

 1992/93シーズンの流行では,予想通り流行の初期にA/滋賀/2/91(H32)類似株が流行したが,中盤からこの株の突然変異によって16〜32倍程度変異したA/北九州/159/93(H32)ウイルスが山形県と北九州市をはじめ多くの地域で分離され,この変異株は,1992/93シーズンの流行終盤までに分離されたA/ホンコン型の80%以上であった。また,このウイルスはWHOの1993/94年ワクチン製造推奨株であるA/北京/32/92(H32)株とも類似し,分子進化学的解析を実施した結果からも,今後もA/北九州/159/93で代表されるA/ホンコン型ウイルスが流行する可能性が示唆された。以上の理由からA/北九州/159/93をワクチン株とした。

 また,A/北九州/159/93(H32)株に対するヒトの保有抗体価が比較的低いことと,国際情報も考慮に入れると1993/94年のシーズンにA/北九州/159/93で代表されるウイルスが流行する可能性がある見通しのもとに含有量を決定した。

3.B型:B/バンコク/163/90

 B/バンコク/163/90は,1990年にバンコクの流行から分離されたウイルスで,我が国においては,1990/91年の流行シーズン中このB/バンコク/163/90類似株が20%分離された。アジア地域,ヨーロッパおよび米国においてもこれとほぼ同じものが流行していることが明らかになった。さらに,1992/93シーズンでは流行の初期から後期まで分離されてきたB型ウイルスの抗原性はB/バンコク/163/90とほぼ同じであった。しかも分子進化学による進化系統樹の位置でもB/山形/16/88の系統に属するこのウイルスは今後も流行を支配すると考えられ,B型ウイルスは本年もB/バンコク/163/90株を利用することに決定した。

 以上の理由から,1993/94年のシーズンに利用するワクチン株とその含有量を表のように決定した。A/ソ連型は要注意株として取り扱い,250CCA量で感染を予防できると考え,A/ホンコン型は300CCA量で4倍程度の変異に耐えられるように,そしてB型は免疫応答が低いこと,および副作用も考えて250CCA量とした。



予研ウイルス第一部呼吸器系ウイルス室 日本インフルエンザセンター








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