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Vol.14 (1993/7[161])

<特集>
カンピロバクター腸炎 1990〜1992


 カンピロバクター腸炎は1973年の病原体確定以来,世界各地で蔓延が確認された比較的新しい腸管感染症である。原因菌はCampylobacter jejuniおよびC.coliで,小児や学童に罹患者が多く,細菌性下痢症の約10%を占める。本疾患に対してわが国では,1982年以降食中毒として行政対応がとられるようになった。

 病原微生物検出情報では地研・保健所集計は1980年から,医療機関集計は1982年からカンピロバクターの検出情報収集を開始した。地研・保健所から報告されるカンピロバクターの多くは食中毒患者から,医療機関からの報告の多くは散発事例患者から検出されたものである。また,1981年から都市立伝染病院(11都市14病院)入院患者からの検出数も収集している。

 表1は1983〜1992年に各機関から報告されたカンピロバクター検出数の推移である。地研・保健所では1985年をピークとして以後検出数が減少した。医療機関の検出数は地研・保健所をはるかに上回るが,1988年をピークに以後減少に転じた。都市立伝染病院からの報告は前二者に比べてはるかに少ないが,同様に検出数の減少傾向が見られる。厚生省統計情報部「食中毒統計」によるカンピロバクター食中毒患者の推移にも同様な減少傾向がみられた。

 本菌による輸入例数の報告は,主に地研・保健所および都市立伝染病院からなされている。図1にみられるように,いずれの集計においても国内発生数の減少にかかわらず,輸入例数には大きな動きはなかった。

 1990〜92年の3年間に報告されたカンピロバクターの種別実施率は,地研・保健所では89%,医療機関では37%であった。1986〜89年の前者が80%,後者が33% (本月報Vol.11,No.5参照) と比較すると,わずかながら種別実施率の上昇がみられた。種別の結果は,従来同様大部分がC.jejuniであり,C.coliは少ない(表2)。

 1990〜92年の月別検出数を報告機関別に図2に示した。地研・保健所および医療機関の検出パターンはよく一致し,5〜6月にピークを示したが,都立伝染病院の入院症例では季節性は顕著でなかった。

 1983〜92年に地研・保健所から報告されたカンピロバクターによる流行・集団発生に関する情報を,月別発生件数,患者数による発生規模別件数に分けて表3に示した。この期間に報告された食中毒発生件数は246件であった。月別発生件数では5月が66件,6月が49件で,この両月で47%を占めた。発生規模別では患者数100以上が74件(30%),99〜50が33件(13%),49〜10が94件(38%),1事件当たりの平均患者報告数は113.3であった。最近の大規模食中毒の減少が,病原体検出数および患者数の減少に反映しているものと思われる。246件の食中毒のうち原因の判明した事件は,鶏肉によるもの15件,飲料水によるもの10件であった。食中毒の発生施設が学校であると報告した事件数は111件(45%)であったが,原因を学校給食と明確にしたのは27件であった。1989年以降血清型別の報告がなされたのは8件で,LIO(Lior)4型4件,同7型が2件,同2型と50型がそれぞれ1件であった。

 都市立伝染病院に1990〜92年に入院した下痢症患者からカンピロバクターが検出された204例の年齢分布を表4に示した。0〜9歳が33%,20〜29歳が30%,10〜19歳および30〜39歳がともに13%を占めた。0〜19歳は国内での感染が多く,20〜49歳は半数以上が輸入例であった。性比は国内例1.4,輸入例2.3で男が多かった。

 都市立伝染病院に,腸炎で入院した患者からカンピロバクターのみが検出された143例の主要臨床症状を表5に示した。腹痛86%,悪心49%,嘔吐33%,最高体温の平均38.4℃であった。39℃以上の発熱を示した患者は48%あった。下熱までに要した日数の平均は3.5で,6日以上は12%であった。最高便回数の平均は9.6回/日,20回以上/日も10%にみられた。便回数が日に2回以下になるまでの平均日数は5.0で16%は改善に8日以上を要した。カンピロバクター腸炎では水様便が最も多く78%を占め,さらに血便が43%に,粘液便が28%にみられた。平均5.6日で便は有形便となり,血便の改善には平均4.2日を要した。

 都市立伝染病院で薬剤感受性試験を実施した成績では,本疾患に推奨されているエリスロマイシンに対して,検査したC.jejuni 132株中4株(3%)が耐性であった。また,ニューキノロン系薬剤に対しては2〜7%に耐性株が検出された。



表1.カンピロバクター年別検出報告数および食中毒患者数1983〜1992年
図1.ヒト由来カンピロバクター検出報告数の推移 1983−1992年
表2.カンピロバクター種別検出報告数 1990〜1992年
図2.月別カンピロバクター検出状況 1990年1月−1993年4月
表3.カンピロバクターによる集団食中毒の発生状況 1983〜1992年(地研・保健所集計)
表4.カンピロバクターが検出された入院症例の年齢分布1990〜1992年(都市立伝染病院)
表5.カンピロバクター腸炎の臨床症状(都市立伝染病院)1990〜1992年





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