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カンピロバクターによる腸炎の集団発生は1982年3月以来,食中毒として行政対応がとられるようになった。病原微生物検出情報ではカンピロバクターについて地研・保健所集計は1980年から,医療機関集計は1982年から検出情報収集を開始した。当初はC.jejuniとC.coliの検出報告を一括して収集し,1986年以降はC.jejuniとC.coliを種別して報告するように収集方式を改めた。また,都市立伝染病院(11都市14病院)の入院症例からの検出報告が1981年から収集されている。表1のごとく,地研・保健所では検査の普及に伴って1985年まで検出数が増加し,以後減少している。医療機関も1986年まで増加,地研・保健所をはるかに上回る検出数となり,以後横ばいであったが1989年に初めて減少した。
1986〜1989年の4年間のカンピロバクターの報告は,地研・保健所では80%が種別されているが,医療機関では33%である。種別された成績によると,大部分がC.jejuniであり,C.coliは少ない(表2)。
地研・保健所集計では8.5%の輸入例を除き,大部分は食中毒の集団発生からの検出である。表3に1986〜1989年に地研・保健所から報告されたカンピロバクターによる食中毒の集団発生について,患者数による発生規模別件数,月別発生件数,原因菌型を示した。本菌による食中毒では患者数100以上が25%(22/89)を占め,サルモネラ等他の菌による食中毒に比べ大規模集団発生の率が高い
(本月報101号参照)。
月別では例年食中毒シーズン前半5〜7月に集中する。1986〜88年は5〜6月に各地で発生したのに対し,1989年は5〜6月が少なく7月に東京で患者数473,菌陽性者数250の大きな集団発生があった。
月別検出数は,地研・保健所では集団発生を反映したピークがみられるのに対し,医療機関では夏季に増加し,さらに年間を通じて相当数が検出されている。都市立伝染病院の入院症例では季節性は顕著でない(図1)。
都市立伝染病院に1986年〜1989年に入院し,C.jejuniが検出された401例の性別年齢分布を表4に示した。0〜9歳が39%,20〜29歳が29%を占める。0〜14歳と50歳以上はほとんど国内例であるが,20〜39歳は41〜56%が輸入例である。性比は国内例1.3,輸入例3.7と男が多い。C.jejuniが単独に検出された例について臨床症状をみると,主な症状では赤痢,サルモネラ等他の病原菌による腸炎と比較して重症例が少なくない。腹痛90%,悪心43%,嘔吐26%,最高体温の平均38.1℃,39℃以上38%,下熱まで平均3.5日,6日以上13%,最高便回数の平均10.1回/日,20回以上/日11%,便回数が日に2回以下に改善するまでに平均5.0日,8日以上17日,水様便69%,血便59%,粘液38%,便性改善までに平均5.5日,8日以上21%,血便のあったものが血液消失までに平均4.2日,8日以上9%などである。
また,入院症例401例中赤痢菌や他の菌との混合感染が75例あった。特に輸入例では混合感染が多く,74例中47例にみられた。
都市立伝染病院において薬剤感受性試験を実施した成績では,第一選択薬剤であるエリスロマイシンに対する耐性株は,検査した257株中6株(2.3%)であった。
なお,カンピロバクターの血清型別に関しては,地研協議会の支部センター*がレファレンス・サービスの中心となって型別に応じることが申し合わされ,日常業務に組み込まれることになった。今後は本菌による流行の解析がより詳細になることが期待される。
*カンピロバクター血清型別レファレンス・サービス支部センター
北海道・東北・新潟地区:秋田県衛科研
関東・甲・信・静地区:東京都衛研
東海・北陸地区:愛知県衛研
近畿地区:大阪府公衛研
中国・四国地区:山口衛公センター
(広島県を除く中国地方)
広島県衛研
(広島県および四国地方)
九州地区:熊本県衛公研
表1.年別カンピロバクターJ/C検出数
表2.カンピロバクター種別検出数,1986〜1989年
表3.カンピロバクターによる集団食中毒の発生状況,1986〜1989年(地研・保健所集計)
図1.月別カンピロバクターJ/C検出状況,1986〜1989年
表4.カンピロバクター ジェジュニが検出された入院症例の性別年齢分布,1986〜1989年(都市立伝染病院)
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