HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.11 (1990/5[123])

<国内情報>
最近経験した寄生虫感染について


 1987年4月から1989年12月までに東京都立墨東病院感染症科に入院した患者から以下のような寄生虫が検出された。なお,赤痢アメーバ,マラリア,条虫を除き,本報告では比較的長期間外国に滞在した日本人あるいは外国人で,寄生虫以外の疾患(細菌性赤痢,腸チフス等)で入院した患者を主に検査対象とした。また,この3者を除いた寄生虫感染者では回虫感染の1例以外は寄生虫によると思われる症状はなかった。内訳は原虫では赤痢アメーバ31例(うち外国での感染と推定された例は18例,以下同様),ランブル鞭毛虫9例(9例),三日熱マラリア6例(6例),熱帯熱マラリア4例(4例)であり,蠕虫では鞭虫12例(12例),回虫5例(5例),鉤虫4例(4例),日本住血吸虫1例(0例),異形吸虫類1例(1例),日本海裂頭条虫2例(0例),無鉤条虫2例(2例)であった。

 赤痢アメーバ感染例では肝膿瘍5例,赤痢9例,シストキャリアー17例であった。肝膿瘍は全例日本人成人男子であり,外国感染と推定された例は2例(タイ,パキスタン),国内感染は3例であり,すべて男性同性愛歴を自認した。赤痢は全例が成人男性でイラン人1例(イラン),日本人8例で,1例は外国感染(ネパール)であった。国内感染と推定された7例中3例が男性同性愛歴を自認し,残りの4例中2例は結婚歴のない中年男性であった。シストキャリアーは1例がベトナム人女性,1例がベトナム人男性,9例が日本人成人男性,6例が日本人成人女性であった。3例の日本人男性を除く14例は外国での感染と推定された(ベトナム,パキスタン,中国,バングラデシュ,モルジブ,ペルー,ボリビア,パラグアイ,ガーナ,エチオピア)。男性同性愛歴を自認した人はいなかったが,男性国内感染3例中2例は結婚歴のない中年男性であった。

 ランブル鞭毛中感染例は1例がベトナム人男児,インド人,ベトナム人成人男性が各1例,日本人の成人男女が各3例であった。推定感染国はベトナム,インド,ネパール,フィリピン,ペルー,パラグアイであった。

 マラリアは全例発熱が主訴であった。三日熱マラリアはインド人成人男性,フランス人成人女性,日本人成人女性が各1例,日本人成人男性が3例であった。推定感染国はインド,インドネシア,マレーシア,パプアニューギニアであった。熱帯熱マラリアはフランス人成人男性,日本人成人女性が各1例,日本人成人男性が2例であった。推定感染国はインドネシア,タイであった。

 鞭虫感染例はフィリピン人女児,インドネシア人成人男性,日本人成人女性が各1例,ベトナム人成人男性4例,ベトナム人成人女性2例,3例が日本人成人男性であった。推定感染国はベトナム,インド,インドネシア,バングラデシュ,フィリピン,モルジブであった。

 回虫感染はベトナム人成人女性,日本人成人男性が各1例,ベトナム人成人男性が3例であった。推定感染国はベトナム,インドであった。1例で腹部不快感があった。

 鉤虫感染はバングラデシュ人成人男性1例,ベトナム人成人男性3例であった。推定感染国はバングラデシュ,ベトナムであり,全例アメリカ鉤虫と考えられた。

 日本住血吸虫感染の1例は,下痢の精査目的で行った大腸粘膜生検でアミロイドの沈着とともに石灰化した虫卵が検出された山梨県甲府出身の日本人成人女性であった。

 異形吸虫類の1例は日本人成人男性で,フィリピンが推定感染国であった。

 条虫感染の4例は片節排出が主訴であった。日本海裂頭条虫は国内感染の日本人成人男女各1例,無鉤条虫の2例はエチオピアでの感染が推定された日本人成人男性であった。

 寄生虫に感染しても臨床症状を呈さない例も多く,海外からの帰国者,旅行者の間で無症状のまま寄生虫(特に蠕虫)に感染している人も多いのではないかと推測された。



東京都立墨東病院感染症科 大西 健児,村田 三紗子





前へ 次へ
copyright
IASR