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Vol.14 (1993/11[165])

<国内情報>
エンテロウイルス71型による手足口病の発生−富山県


 手足口病は,毎年6月から9月にかけて患者が多発している。富山県結核・感染症サーベイランス事業では,1993年の手足口病は,6月下旬頃から増加し始めて,7〜8月には報告数がかなり多くなった。なお,本県では1991年にエンテロウイルス71型(EV71)とコクサッキーウイルスA16型による大きな流行が発生して以来2年目のことで,その発生状況は一昨年と比べて小規模であった。以下に検査状況について報告する。

 本年6月,2歳の女児が手足口病に罹患した3日後に脳炎症状を呈し,その2日後に死亡する症例が発生した。患児から唯一採取されていた髄液からはウイルスを分離できなかったので,脳炎の原因は不明だが,手足口病のウイルスが関与していた可能性が推測された。そこで,患児の周囲で散発していた手足口病の患者からウイルス分離を試みた。その後,7〜8月に県の感染症サーベイランス調査で手足口病の患者数が増加するにつれて,医療機関から患者についてのウイルス検査依頼が増えた。これまでに検査した24名の患者は,37〜40℃の発熱があり,そのうち16名は髄膜炎,2名は髄膜脳炎を併発していた。年齢は0歳(8ヵ月)から13歳で,大部分は5歳以下であった。

 ウイルス分離にはVeroおよびRD−18S細胞を用いた。上記24名のうち,ウイルスが分離されたのは手足口病症状のみの患者5名,髄膜炎併発患者12名,髄膜脳炎併発患者1名の計18名であった。検体別の分離率は糞便77%(17/22),咽頭ぬぐい液30%(7/23)であったが,17検体の髄液からは分離されず,髄膜脳炎の原因をはっきりさせることはできなかった。これら18名のうち髄膜脳炎併発患者を含む16名の患者からVero細胞のみで増殖するウイルスが分離され,EV71と同定された。これらの分離株はVero細胞で明瞭なCPEを示し,EV71の標準株(BrCr)に対する自家製抗血清によって容易に中和された。残り2名の患者(ともに髄膜炎併発)からは,VeroとRD−18Sの両細胞で非常によく増殖するウイルスが分離されたが,同定中である。患者から水疱内容が採取されず,検査していないので,確定的ではないが,これらEV71が手足口病の原因であると推定される。さらに,EV71感染が髄膜炎を併発することはよく知られているが,今度,髄膜脳炎にも進展する危険性のあることが示唆された。

 つぎに,EV71の流行が,2年という短い間隔で発生しているメカニズムを探るために,今度の分離株と1991年の流行時に分離した株との抗原性を比較した。両ウイルス株は,抗標準株血清に対する中和抗体価に差を示さなかったので,少なくとも,EV71の中和抗原は,この2年間に著しく変異していないと考えられる。そこで,1992年の7〜9月に健康な住民から採取された血清を用いて1993年分離EV71に対する抗体の保有状況を調べた。中和抗体価4倍以上の陽性率は,0〜4歳21%(9/43),5〜9歳38%(9/24),10〜14歳27%(10/37),15〜19歳45%(14/31)であった。この結果は,EV71の流行が比較的短い間隔で発生しているにもかかわらず,意外に住民の抗体保有率が低いことを示した。特に,4歳以下の年齢に感受性者が多く,流行のターゲットになっているものと考えられる。実際,この年齢層で患者が多発していた。



富山県衛生研究所 森田 修行





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