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Vol.14 (1993/11[165])

<特集>
手足口病 1992


 手足口病は,手のひら,足のうら,口腔粘膜に水疱を形成し,夏から秋にかけて乳幼児・小児に流行する軽症の急性発疹性疾患である。原因ウイルスはコクサッキーウイルスA16型(CA16),エンテロウイルス71型(EV71)で,さらに頻度は低いながらCA10,その他のCAによっても起こる。

 感染症サーベイランス情報によると,1992年の一定点当たり手足口病患者報告数は91年に比べてやや増加した(図1)。患者発生は5月第3週から始まり,7月第4週にピークを迎えた。秋遅くまで横這い状態が続き,終息したのは12月第4週であった。一定点当たり年間患者報告数の全国平均は23.6人で,前年比は2.68であった。

 手足口病の発生を地域別にみると,1990年の大流行のあと,91年は富山,石川,愛知を除いて全国的に少なかったが,92年は岐阜を筆頭に近畿,中国,北海道と東北,九州地方の一部で増加した(図2)。図2における地域別の比較では,定点間の診療患者数の差による偏りを除くため,定点ごとに毎年の患者報告数がほとんど一定である突発性発疹患者数で手足口病患者報告数を割った比を用いている。

 1992年に病原微生物検出情報へ報告された手足口病症例(診断名または症状が手足口病と記載されていたもの)からのウイルス検出数は298で,CA16が47.0%,CA10が17.8%,EV71が16.1%,その他が19.1%であった(表1)。手足口病の原因ウイルスはそれぞれ数年おきに異なる間隔で流行しており,年によって流行の主要な型が変わる。1992年はCA16が主であったが,例年に比べてCA10の占める割合が高かった。

 手足口病症例から検出されたCA16,EV71,CA10の月別推移を図3に示した。CA16,CA10は例年同様,6,7月を中心にピークを示し,秋にも検出は続いたが,12月にほぼ終息した。一方,EV71は7月に増加したのち横這い状態を続け11月にピークを示した。その後減少は遅く,1993年の3月にようやく終息した。秋から冬にかけて検出されるウイルスは,次のシーズンに比較的大きな流行を起こす傾向がある (本月報Vol.13,No.11,1992参照)。 92年のパターンから予測された通り,93年はEV71が早くから増加している。

 報告機関別にみると,EV71は長野から香川,CA10は富士から宮崎に至る西日本で散発的に検出された。CA16は秋田から宮崎に至るさらに広い地域で検出されたものの,西日本に多かった。

 手足口病患者の年齢分布は,感染症サーベイランス情報によると例年とほぼ同様で,0歳が6.4%,1歳が22.2%,2歳が19.7%,3歳が18.7%,4歳が14.9%,5〜9歳が16.1%,10〜14歳が1.3%,15歳以上が0.7%であった。ウイルス別にみると,CA10で0〜1歳の占める比率が高いのが注目された(図4)。

 1992年のCA16,EV71,CA10の総検出数はそれぞれ171,53,271で,その81.9%,90.6%,17.7%が手足口病と診断された症例から検出された(表2)。CA10は1984年に次ぐ大きな流行で,さらに手足口病の占める割合も1982年以来最高であった。無菌性髄膜炎は少なく,CA16で2例(1.2%),EV71で1例(1.9%),CA10で3例(1.1%),年齢はそれぞれ5歳と8歳,0歳,0,6,38歳であった。

 速報:1993年の手足口病の流行は比較的大きい。患者報告数は7月第3週にピークを示したが,10月に入っても横這い状態を続けている。地域別にみると,92年に患者発生の少なかった東北,特に岩手,青森が最も早く大きな上昇を示し,北海道,関東・甲信越,四国が追随している。手足口病に関係するウイルスでは,10月20日現在,EV71が最も多く,愛知(19例),鳥取(14例),富山(10例),奈良(9例)等から合計73例報告されている。そのうち49例から手足口病,11例から無菌性髄膜炎,2例から無菌性髄膜炎と手足口病,1例から脳炎・無菌性髄膜炎・手足口病が報告されている。無菌性髄膜炎の発生率が19.2%と例年に比べて高い。CA16は全部で27例で,24例から手足口病,2例から無菌性髄膜炎と手足口病が報告されている。



図1.手足口病患者報告数の推移 1982-1993年(感染症サーベイランス情報)
図2.都道府県別手足口病患者発生状況 1990-1992年 −手足口病対突発性発疹患者報告数の比− (感染症サーベイランス情報)
表1.手足口病症例からの年別ウイルス検出数 1982-1992年
図3.手足口病症例からの月別ウイルス検出数 1992-1993年
図4.手足口病症例のウイルス別年齢分布 1992年
表2.CA16,EV71,CA10検出例の臨床診断名 1992年





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