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Vol.15 (1994/1[167])

<国内情報>
ペット用サルに起因したと思われる赤痢の発生について


 サルとそのサルを飼育していた家族等から赤痢菌が検出されるという事例が発生した。そこで,東京都立衛生研究所はじめ各検査機関で分離された赤痢菌に対する薬剤感受性試験,病原因子の確認およびプラスミドプロファイルの解析を行ったので報告する。

 1.ヒトおよびサル(アフリカ産,ハナジロゲノン)の臨床症状および検出された菌型を表1に示した。下痢等の臨床症状をともなった男性から10月26日にShigella flexneri 3aが検出された。その男性はサルAを飼育していたことから,サルAや家族など検査を行った結果,10月28日に母親(bQ)からはS. flexneri 6が,サルAからはS. flexneri 3aが検出された。

 翌29日には父親からS. flexneri 3a,そして母親から再びS. flexneri 6(bU)と新たにS. flexneri 3a(bT)が同時に検出された。また,サルAが飼われていたケージのフキトリ検査を行いS. flexneri 3aが検出された。

 30日には男性の家を訪れ,サルAに接した接触者からもS. flexneri 3aが検出された。そのほか,サルBから10月31日,サルMから11月4日にS. flexneri 6が検出された。

 2.薬剤感受性試験

 つぎに各機関から分与を受けた分離菌株に対する薬剤感受性試験をKirby-Bauer法で行い,その成績を表2に示した。

 男性,サルA,父親,母親(bT),サルのケージおよび接触者から検出されたS. flexneri 3aはセフェム系,アミノ糖系およびFOM等の薬剤に感受性であったが,CP,TC,ABPCおよびSXT薬剤に耐性であった。母親(bQ,bU)とサルBから検出されたS. flexneri 6はSXT薬剤に感受性であるほか,S. flexneri 3aと同じ薬剤感受性パターンであった。

 しかし,サルBとサルMから検出されたS. flexneri 6では前者がセフェム系,アミノ糖系薬剤に感受性であり,後者はセフェム系,アミノ糖系のうちKM,セフェム系薬剤に耐性であった。同種のサルから検出されたS. flexneri 6でも由来により薬剤感受性パターンにいくつかの相違が認められた。

 3.病原因子

 病原因子についてInuE遺伝子を対象にPCR法により試験した。その結果,いずれの赤痢菌も陽性であった。

 4.プラスミドプロファイル

 プラスミドの検出はKadoらの方法に準じて実施し,その成績を図1に示した。

 ヒト,サルA由来のS. flexneri 3aおよびヒト,サルB由来のS. flexneri 6のプラスミドプロファイル3aで7種,6では5種に分類され,それぞれ同一の泳動パターンを示した。

 しかし,サルM由来のS. flexneri 6は約40Mdのプラスミドを保有し,ヒトやサルB由来とはそのプロファイルが異なっていた。

 本事例はヒト,サルおよびケージ等から,血清型,薬剤感受性およびプラスミドプロファイルにより性状の異なる3種類の赤痢菌が検出されるという珍しい事例ではあったが,今回の集団事例の感染源として関与が推察されたサルAと,このサルを飼育していた初発患者および家族等から検出されたS. flexneri 3aは,いずれも薬剤感受性やプラスミドファイルが一致した。



神奈川県衛生研究所 松島 章喜


表1.ヒト・サルの臨床症状と検出菌型
表2.分離菌の薬剤感受性試験
図1.S. flexneri 3aと6のプラスミドプロファイル



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