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HSV-1とHSV-2の型特異抗体を検出し,それぞれの疫学や感染症の診断に役立てようという試みが長年行われてきた。特に,HSV-2の感染様式はほとんどが性感染症(STD)と考えられるので,HSV-2の血清疫学はSTDにおけるHSV-2の意義を明らかにすることに役立つ。また,HSV-2感染の50〜70%は無症候性であると言われており,HSV-2の自然史を解明する上で,型特異的抗体の測定は必須である。
しかし,HSV-1とHSV-2の間には非常に強い抗原交差が存在する上に,1人の人間がHSV-1に幼少時に,HSV-2に成人後に重感染する状況が多い。従って通常の抗体測定法を用いる限り,血清から感染しているウイルスの型を決めることはほぼ不可能といってよい。
そのため,様々な工夫が行われてきた。基本的には,@HSV-1とHSV-2それぞれの抗原に対する抗体価を求め,比を取る,A抗体価の引き算をする,Bあらかじめヘテロの抗原で抗体を吸収しておく,等の方法である。筆者らも中和1) やELISAで試みてきたが,結局,重感染を判定することができなかった。外国の市販の抗体測定キットの中にはELISAで型別ができると謳っているものもあるようだが,研究者によって否定されている2) 。
結局最も確実なのは,HSVの70におよぶ蛋白の中から,型特異的なものだけを取り分けて抗原として用いることであろう。近年,HSVの蛋白の解析が進み,エンベロープの糖蛋白でGと呼ばれるもの(gG)が,型特異的であることがわかった3) 。HSV-1の持つgGをgG-1,HSV-2の持つgGをgG-2と呼ぶが,gG-2が2,097bpの遺伝子を持つ蛋白であるのに比べ,gG-1は717bpしかない。すなわち,gG-1はgG-2の約2/3を欠損している。さらに,残る1/3にはほとんど共通抗原性がない。このgGを抗原として用いることにより,初めて厳密な意味でのHSVの型特異的血清疫学が可能になった。
モノクローナル抗体をつけたアフィニティクロマトにより感染細胞から抽出し精製したgG-1とgG-2を抗原として,90年に筆者がNahmias,川名らと共に検討した結果では4) ,日本におけるHSV-2の侵淫状況は以下に示す通りであった。すなわち,HSV-2に対する抗体保有率は,本邦の健常人で7.8%,妊婦で6.7%,特殊浴場接客婦で79%,STDクリニックに通う男性で23%,男性同性愛者で24%であった。特殊浴場接客婦に約80%もの高率でHSV-2に対する抗体が検出されたことは,この集団のHSV-2の感染源としての重要性を示唆するものであった。
このようにgGに対する抗体の疫学的な有用性は明らかであるが,診断の面からみた場合,gGに対する抗体は感染後1ヵ月を経ないと検出できないという報告があり,gGを感染症における血清診断にどの程度利用できるかについては,まだ評価が定まっていない。
最近は,効率の悪い感染細胞からの抽出抗原でなく,大腸菌やbaculovirusに発現させたgG-1とgG-2を用いる方法5,6) が試みられている。
1)川名,橋戸:臨床とウイルス,19:347-351,1991
2)Ashley, L. R. et al. : Ann. Int. Med., 115 : 520-526, 1991
3)Lee, F. K. et al. : J. Clin. Microbiol., 22 : 641-644, 1985
4)橋戸他:医学のあゆみ,152:669-670,1990
5)Spiezia, K. V. et al. : In Lopez, C. (ed.), Immunobiology and Prophy laxis of Human Herpesvirus Infections, Plenum Press, New York, 1990
6)Sanchez-Martinez, D. et al. : Virol., 182 : 229-238, 1991
予研感染症疫学部 橋戸 円
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