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Vol.15 (1994/2[168])

<国内情報>
小型球形ウイルスによる急性胃腸炎の集団発生事例−佐賀県


 小型球形ウイルス(SRV)と総称されるウイルス群による急性胃腸炎は冬季に多く発生しており,各地で集団発生もみられている。当県においても,1993年1月,南西部を旅行したグループに,嘔気・嘔吐,下痢を主徴とする急性胃腸炎の集団発生がみられたので報告する。

 本事例は共通食品等の解析から食中毒様集団発生事例であり,喫食者は34名であった。喫食者の年齢分布は25〜63歳の成人27名と3〜14歳の子供7名に大別され,有症者は成人のみで25名(74%)であった。共通食品のうち,有症者がみられなかった子供はカキを喫食していなかった。潜伏時間は最短16時間,最長66時間であり,その平均潜伏時間は約36時間であった。有症者の主な症状は嘔気(80%)が最も多く,次いで下痢(60%),腹痛(32%),嘔吐(20%),発熱(20%)等であった。発熱は38℃以下であった。

 病原検索の結果,14名の有症者から得られた糞便のうち,7名(50%)の糞便から電子顕微鏡法により辺縁に突起構造をもつ,直径約30〜35nmのウイルス粒子が検出された。また,17名の有症者から得られた急性期血清および回復期血清を,検出されたウイルスを抗原とするウエスタンブロット法により比較すると,11名の回復期血清(65%)で63kDの位置に反応するバンドがみられた。このバンドは兵庫県で検出されたウイルスから作製された抗原膜においても同様に観察された。これらのバンドは急性期では検出されず,特異的抗体の上昇が確認された。

 以上から,本事例は検出されたウイルス粒子の形態的特徴からSRSVによる集団発生と推定され,カキが原因食品として強く疑われた。また,ウエスタンブロット法では,有症者の回復期血清と63kDの位置で反応する特異的バンドが形成され,各地で報告されているSRSVと抗原的に近縁なウイルスであることが示唆された。

 今回の報告にあたり,ご協力頂きました福岡県保健環境研究所・大津隆一先生,兵庫県衛生研究所・近平雅嗣先生に深謝します。



佐賀県衛生研究所
船津丸 貞幸,田中 知子,山田 裕子1) ,藤川 攸心,
土田 龍馬1) 現所属:佐賀県立病院





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