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近年,海外旅行が盛んになり,海外で各種の感染症に罹患するケースが増加している。我々は今回,つつが虫病の輸入感染症例を検査する機会を得たのでその概要を報告する。
患者は福岡市に住む66歳の男性会社員で,1993(平成5)年10月24日〜26日まで韓国済州島を旅行中,つつが虫病に罹患したと推定される。
済州島は面積1,824km2,日本の大阪府とほぼ同じ程度の島で人口約50万人,最高峰はハンラ山(1,952mで韓国内の最高峰),福岡からは飛行機で約50分というまさに気軽に行ける場所である。
患者によれば,10月25日頃,済州島西側の山房山展望台もしくはハンラ山東側の噴火口あたりでつつが虫に刺された可能性が高いとのことで,ゴルフはしていないという。
帰国後,11月2日から発熱(最高39.2℃),6日から全身に発疹が出現,10日に市内のS医院で診察を受けた。
血清検査でGOT358,GPT280となる等,肝機能に異常が認められた。また,右鼠径リンパ節の腫脹,右臀部に1ヵ所痂皮化した刺し口を認め,つつが虫病が疑われたため,S医院より保健所へ届出があった。
衛生試験所において,ペア血清(11月12日,19日採血)を間接蛍光抗体法(IFA,IgGのみ)により測定したところ下表のとおりであったので,血清学的に陽性と判定した。
なお,患者の治療はビブラマイシン(ドキシサイクリン)を7日間投与し,11月26日にGOT31,GPT35と肝機能も正常化したため終了している。また,予後は良好とのことである。
今回の事例のように,海外でつつが虫病に罹患し,地研で検査を実施するケースが今後増加すると思われる。普段つつが虫病に接する機会が少ない地研においても,検査体制の確立が必要だと思われた。
福岡市衛生試験所 梶原 一人,宮基 良子,香月 隆延,長沼 正昭
福岡市東保健所 荒木 奈々恵
表.間接蛍光抗体検査結果(IF価:倍)
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