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1993年11月15日吉野郡の小学校で児童53名中42名が発熱・腹痛・下痢の症状を呈し欠席している旨の情報が所轄の保健所(HC)に通報された。校医は流行性感冒を疑ったが,所轄のHCではカゼ様疾患および集団食中毒の両面で調査を実施した。その結果,患者群は1993年11月12日7時を初発として,児童53名中52名(98%),職員15名中9名(60%),計61名にのぼり,発病率は90%であった。患者群の症状は表1に示すように,下痢(90%),発熱(85%),腹痛(84%)を主とし,発熱39℃以上の患者は29名(56%)と多く,初発の症状は発熱(46%)が最も多く,以下頭痛(32%),腹痛(20%),下痢(16%)の順に発現した。本県では従来より食中毒の検査はすべて衛生研究所で実施しており,細菌検査の結果,有症者ふん便18検体中18件(100%),調理従事者ふん便2検体中2件(100%)からSalmonella Enteritidis(S.E)が検出された。
食品は11月10日(ハヤシライス・ハクサイサラダ),11月11日(ヤサイゴマアエ・ソボロドンブリ・ハクサイスープ)の保存検食を検査し,11日のソボロドンブリからS.E(10×102/g)が分離された。分離株のファージ型別(国立予研に依頼),薬剤感受性試験,プラスミドプロファイルの結果はファージ型1,SM耐性で,保有するプラスミドは60kbpsであった。これらの成績は1993年にわが国で流行したS.Eのそれらに一致した。原因食品であるソボロドンブリは鶏挽肉,鶏殻付卵,インゲン豆,ご飯を原材料にして,午前8時30分から個々に調理され10時15分に終了し,室温に放置後12時30分に喫食された。所轄HCの再現実験を含んだ調査から,鶏殻付卵は割卵後76℃前後の温度で炒り卵に調理されたことがわかり,汚染源として鶏卵由来が最も疑わしい結論を得た。鶏卵のサルモネラ汚染防止対策の一層の強化が望まれる。
奈良県衛生研究所 梅迫 誠一,市村 國俊
奈良県吉野保健所 堀 守広,中尾 清勝
表1.患者群の症状
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