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Vol.15 (1994/3[169])

<国内情報>
わが国における大複殖門条虫症患者発生の現状


 大複殖門条虫は1894年にわが国の患者から発見された虫体について,新種記録がなされ,本虫感染の最初の人体症例として報告されたが,その生活環,特に人への感染源となる第二中間宿主の解明はいまだなされていない寄生虫である。

 表1に示すように,患者の第1例の報告後ほぼ50年間は10年間に数例の割合でしか患者発生をみていなかったが,1961年以降は患者発生数が次第に増加しており,1993年現在196例を数えている。

 それらの患者発生地は図1にみるように,例外的な青森県の2例を除き,福島県以西の太平洋岸と京都以西の山陰ならびに九州で患者発生をみており,明らかに北日本に多くの患者をみる日本海裂頭条虫症患者発生とは地理的にその分布を異にしていることがわかった。

 患者の性比をみると6.2:1と明らかに男性に多く,年齢的には40歳代(26%)に最も患者が多く,次いで50歳代(25%),30歳代(16%),60歳代(10%)と高年齢(最高年齢83歳女性),低年齢(最低年齢3歳3ヵ月男性)になるに従って感染者数が少なくなる傾向が示された。

 本虫の生活史は前述したように未解明であるが,その終宿主の一種にイワシクジラが含まれており,患者の多くは発症前に海産魚(63%),中でもイワシ(24%)やアジ(13%)を食べていることから,それらの旬である秋冬に魚類を摂食,感染し,春期に多数の患者(51%)が発見されるものと考える。

 患者はその排虫によって初めて本虫の感染を認識するものが多く,その排虫をも含めての自覚症状は61%にみられ,その他の症状としては下痢(43%),腹痛(24%)等の消化器症状(食欲不振,悪心,腹鳴,胃痛,腹部不快感など)が見られる。

 駆虫に関しては日本海裂頭条虫のそれに準ずる(本月報Vol. 14,bV参照)。



予研寄生動物部 影井 昇


図1.大複殖門条虫症患者の都府県別発生状況
表1.大複殖門条虫症患者の性別・年度別発生状況





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