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Vol.15 (1994/4[170])

<国内情報>
わが国におけるマンソン孤虫症患者発生の現状


 犬・猫を終宿主とするマンソン裂頭条虫(Diphyllobothrium mansoni)は世界各地に見られ,その中間宿主である両生類,爬虫類,哺乳類等を人が摂取した場合,宿主内幼虫は人体内では発育することなく幼虫(plerocercoid)のままで寄生し,いわゆるマンソン孤虫症(Sparganosis mansoni)と呼ばれ,その感染者は世界各国から報告されている。中でも中国,日本等のアジアからの患者報告は特に多く,日本での患者発生の現状報告は五十嵐ら(1972),影井(1989)により行われているが,ここでは1971年以前の五十嵐らの報告とその後発見・報告された症例を影井(1989)の報告に追加し,現状を報告した。

 患者は表1に見るように1971年以降毎年数例から10数例ずつが図1のようにほぼ全国から報告されている。年齢的には30歳代をピークにした中年,そして男性に多発している。

 患者の多くは表2に見るように,その半数が発病前に摂取した感染源と考えられるものについては記憶していないが,記憶していた者の60%以上は爬虫類(ヘビ)ならびに両生類(カエル)を食べており,このことは本症の感染予防を考える上で極めて重要なことである。

 人におけるマンソン孤虫の寄生部位は表3にみるように人体の各臓器内から見出だされているが,中でも胸部並びに腹部,大腿部からの発見が多く見られ,その他,眼部や乳房部,陰嚢・陰茎部からも見出されている。

 本症の診断は感染源とおもわれる両生類,爬虫類を食べた後移動性の腫瘤形成によって本虫感染を疑うことができ,同様の症状を示す肺吸虫症や顎口虫症とは免疫血清学的診断により鑑別が可能である。

 特効的な駆虫剤は無いので,体表に近く出現したものは外科的に摘出するのが最も効果がある。

 極めてまれではあるが中間宿主と一緒に取り込まれたマンソン裂頭条虫幼虫がヒトの小腸内で成虫に発育することがあり,わが国でも12例の成虫寄生例が報告されているが,このような人体内における幼虫寄生あるいは成虫への発育についての原因はまだ解明されていない(影井,1989)。



 参考文献

五十嵐信一ら(1972):皮膚臨床,14,197-204

影井 昇(1989):最新医学,44(4),877-883



予研寄生動物部 影井 昇


表1.マンソン孤虫感染者の年度別報告状況(医学中央雑誌より)
図1.都道府県別マンソン孤虫症患者発生状況(1971〜1992)
表2.発症前に摂取した食物
表3.マンソン孤虫の人体における発見部位





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