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Vol.15 (1994/5[171])

<外国情報>
無マラリア地区におけるマラリアの再輸入


 土着マラリアが無くなった国ではマラリア原虫の伝播蚊Anopheles属が生存している限りマラリア流行地から帰国する人々によって再輸入がみられる。近年,輸入マラリア患者からの流行がトリニダッドとシンガポールでみられた。

 トニリダッドではマラリアは1965年に撲滅された。ところが1991年1月にトリニダッドの南西半島にあるイカコスに住む海外渡航歴のない8歳の子供がマラリアの症状を呈した。厚層の血液標本中に三日熱マラリア原虫がみられた。町の近くには伝播蚊A. aquasalisが多く発生する沼地があった。イカコスならびに近隣の人々の厚層血液標本の調査で,三日熱マラリア感染者が9例発見された。恐らく最初の症例は三日熱マラリア流行地であるベネズエラのPedernalesを1990年11月に訪れた沼地近くに住むイカコス出身の男性だろう。彼は帰国後2ヵ月間中等度の発熱と寒気があったが,医学的な処置は行っていない。

 シンガポールでは1982年11月以来マラリア患者は発生していない。ところが,1993年にPunggol Point沿岸のレクリエーション地区でマラリアの発生がみられた。地域住民はバングラデシュやマレーシアからの外国人労働者が多い。三日熱マラリア患者の最初の届出は海外渡航歴のない52歳の住人で,その後7週間に27例が確認された。これらの患者のうち21例はシンガポールの他地区の住人で,1993年4月と5月にPunggol Pointを訪れている。残りの6症例中5例は外国人労働者であった。恐らく最初の症例はインドのケララに9ヵ月間旅行して最近帰国した2人であると結論された。彼等は1993年4月に高熱がでるまで病院での治療は受けていない。約1,000人(住民,外国人労働者,旅行者)の厚層血液標本の検査ではさらに3人の患者が発見された。伝播蚊のA. sundaicusが成育しているのが養魚地で発見され,雌の成蚊が捕獲されたが,マラリア原虫のスポロゾイドに感染している蚊は見出されていない。

(CDSC,CDR,3,40,181,1993)

 編集子:現在日本でのマラリア患者の輸入例は多数みられるが,本報告のようにそれが原因で流行を起こした事例はない。しかし,1960年以前に流行のみられた三日熱マラリアの伝播蚊であるシナハマダラカは依然全国的に見られるし,沖縄県の八重山,石垣島には熱帯熱マラリアに感受性のあるコガタハマダラカが存在しており,日本における輸入マラリアを原因としたマラリアの流行の危険性が無くなったとはいえない。






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