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Vol.15 (1994/7[173])

<国内情報>
無鉤嚢虫症の肉用牛での集団発生(事例紹介)


わが国のウシにおける無鉤嚢虫症の報告は非常に少なく(厚生省の統計によれば,平成4年はと殺総数1,482,749頭中34頭がウシの嚢虫症として確認された),また,国内での集団発生例はこれまでに報告されていない。昨年(1993),神奈川県食肉衛生検査所が県下の1農場で飼育されていた肉用牛で集団発生例を経験した1)ので,その概要を紹介する。

 平成5年7月〜平成6年3月の間に,食肉衛生検査所に搬入された雌の肉用牛71頭(黒毛和種21頭,ホルスタイン3頭,F147頭)から無鉤嚢虫が検出された。検査は,心臓,肺,肝臓,横隔膜,咬筋,舌,尾等を3mm間隔で細切した。枝肉については39例ではあるが,同様の細切を実施した。嚢虫の確認は圧平法および嚢虫を脱嚢させて頭部を観察する方法を採った。嚢虫の体内分布は,心臓67/71(94%),肺28/69(41%),肝臓21/69(30%),横隔膜58/70(83%),咬筋52/69(75%),舌29/69(42%),尾19/69(28%)であった。一部の牛については脾臓,消化器および脳についても検査したが,寄生していたのは消化器のみ6/28(21%)であった。枝肉では,全身の筋肉から検出されたが,特に肩甲骨周囲と大腿部での寄生率が高かった。また脂肪組織からも嚢虫は検出された。なお,1月以降新しい感染牛は発見されていない。

 無鉤条虫は世界中に分布し,特に牛を食用とする国々に多い。ヒトを終宿主とし,成虫は腸管に寄生する。虫卵を含んだ体節や虫卵が便とともに排出され,中間宿主であるウシ,ヤギおよびヒツジなどに摂取されると,小腸で脱殻した六鉤幼虫が筋肉や臓器に達して嚢虫となる。ヒトへの感染は,嚢虫の寄生している牛肉の生食や不完全な調理のものを摂取することにより成立する。

 今回の症例では感染経路は明らかではないが,飼料の汚染あるいは農場の環境の汚染が予想される。これまで国内での発生が非常に少ない寄生虫であるだけに,海外との関連(輸入飼料,海外渡航者,外国人等)が憂慮される。国内における無鉤条虫の人体寄生例も散見されるが,ブラジルでの長期技術指導従事者であった。

 1) 無鉤嚢虫症の集団発生事例,食肉衛生検査所事業報告(1994)

2) 森 雄一:成人検診にみる最近の寄生虫検査から,予防医学 35:83-88(1993)



神奈川県衛生研究所 黒木 俊郎





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