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全国のサーベイランス事業と予研呼吸器系ウイルス室にて全国地方衛生研究所の協力のもとに独自に実施しているウイルス分離情報とによれば,1993/94インフルエンザシーズンは,昨シーズンと同様にA/香港(H3N2)型とB型による混合流行であった。
本シーズンの第1の特徴は,流行の開始時期が遅かったことである。流行の第1報は例年になくかなり遅れて徳島県からB型ウイルスの検出連絡があり,その数日後,大阪府と埼玉県でA/香港型が分離されたという報告を受けた。
第2の特徴は,流行ウイルスの動きに関してである。12月第1週に確認されたA/香港型とB型ウイルスの二つの型のウイルスはともに1月下旬頃まで緩慢に動き,2月初旬になってA/香港型の方が活発に動きだし,分離ウイルスの数の上で3月初旬にピークに達した。その後,分離数はわずかであるが,ほぼ全国的に分離された。一方,B型ウイルスはA/香港型よりも2〜3日早く確認されたにもかかわらず,約1ヵ月間なんら動きが見られず,翌1994年の1月第4週になり再び姿を現したが,ごく限られた地域でのみ分離されたにすぎなかった。すなわち,本シーズンの流行はA/香港型が主流であり,これにB型ウイルスがごくわずかに参加するという特徴を示した。
第3の特徴は,分離されてきた大部分のウイルスの抗原性が予想通りワクチンの中に入っているA/北九州/159/93類似株であったことである(表1)。なお,表1に見られるように,流行末期の分離株の中に少数ではあるが(このワクチン株のホモ抗体価が1:2,048のとき),A/北海道/7/94,A/仙台/C384/94,A/秋田/1/94ウイルスのように1: 128〜256と8〜16倍程度弱い反応を示す変異ウイルスも確認された。表2に,その変異ウイルスの代表としてA/秋田/1/94ウイルスの抗原分析の結果を示す。さらに,大阪府では,流行初期に表1に見られるようにA/滋賀とA/ブラジルの抗血清に高く反応するA/滋賀/2/91類似株も確認された。これらのA/香港型分離ウイルスの遺伝子解析については現在検討中である。
B型分離ウイルスの抗原性については,表3に示したようにワクチン株のB/バンコク/163/90の抗血清に強く反応したB/徳島/101/93のようなウイルスも確認された。一方,B/バンコク/163/90株から4倍程度変異したB/三重/1/93で代表されるウイルス(前シーズンの流行末期にわずかに確認されていた)とほぼ同じ抗原性を示した株が多く分離された。また,B/鹿児島/15/94ウイルスのようにB/愛知/5/88の抗血清にのみわずか1: 32という低いHI価を示したウイルスも確認された。このウイルスは,すでに前シーズンの中期に大阪市で分離されていたB/大阪/C-19/93株と同様に,すでにヒトの世界から消えてしまったと考えられていたB/ビクトリア/2/87ウイルス系統であることが遺伝子解析によって明らかにされた。さらに,B/徳島/101/93ウイルスについてプラック中和試験と遺伝子解析を実施した成績からもB/バンコク/163/90とB/三重/1/93の両ウイルスの中間型であることが証明された。
予研ウイルス第一部呼吸器系ウイルス室
WHOインフルエンザ・呼吸器ウイルス協力センター
表1.1993/94流行シーズンに分離されたインフルエンザウイルスA(H3N2)型抗原分析
表2.1993/94インフルエンザシーズンに流行したA香港(H3N2)型ウイルスの抗原分析
表3.1993/94流行シーズンに分離されたインフルエンザウイルスB型抗原分析
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