|
3月18日までに厚生省に届けられた1995年のわが国のコレラ患者(保菌者,疑似患者を含む)は236名で,短期間の間に終戦直後の復員コレラに次ぐ大規模な患者発生をみている。注目すべきは,2名の国内感染例を除きすべてバリ島旅行者である点である。東京都においてもその影響を受け,2月の海外旅行者検便数は例年の3倍強の309件を数え,その大部分はバリ島旅行者であった。そこでバリ島旅行者における各種腸管系病原菌の感染の実態を把握する目的で,本期間中(2月6日〜3月24日)行った海外旅行者検便のうちバリ島旅行者からの検索成績を概略紹介する。
検査総数は病院由来コレラ8件を含め419件で,そのうち124件(29.6%)が腸管系病原菌陽性検体であった。また,陽性例中21件(16.9%)は海外旅行者下痢症の特徴の一つである複数菌検出例に相当した。検査時あるいは旅行時の下痢の有無により検査対象者を下痢現症者,下痢既往者および健康者の3群に大別した場合,病原菌検出頻度は下痢現症者群では30件中24件(80.0%),下痢既往者群では251件中80件(31.9%)であり,健康者群でも138件中20件(14.5%)から病原菌が検出された。
検出病原菌は12種と多彩(表参照)であり,検出頻度的にみるとサルモネラが最も多く,次いでプレジオモナス,コレラ菌,カンピロバクター,毒素原性大腸菌,エロモナスの順であった。問題となっているコレラ菌は,下痢現症者11名,既往者4名および健康者1名,計16名より確認された。これらはすべて毒素産生性のエルトール小川型であったが,抗生剤感受性試験によりストレプトマイシン感受性株(14株)と耐性株(2株)に分けられた。赤痢菌(ソンネ)も2名の下痢現症者から検出され,注目された。サルモネラは下痢既往者群および健康者群で,カンピロバクター,エロモナスおよびプレジオモナスは既往者群で検出頻度が高かった。また,海外旅行者下痢症で最も高頻度に検出される毒素原性大腸菌は下痢現症者群に比較的多く認められた。複数菌検出例の組み合わせは10例であり,そのうち最も多い組み合わせはサルモネラとカンピロバクター,およびサルモネラとプレジオモナス(ともに5例)であり,3菌検出例も2例認められた。
今回のコレラ禍は全国に波及しており(3月18日現在1都2府1道32県),ここに示した成績からバリ島旅行者を介して相当数の各種腸管系病原菌がわが国に持ち込まれていると推察される。今後とも監視体制の強化と旅行者および旅行業者への教育・指導が必要であろう。
東京都立衛生研究所
山田澄夫 松下 秀 関口恭子 工藤泰雄
表
|