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Vol.16 (1995/4[182])

<国内情報>
千葉県・埼玉県・茨城県の3県におよぶ集団赤痢について


 1994(平成6)年11月終わりから12月初めにかけて茨城県内の保育園(園児35名)に赤痢が発生し,埼玉県および千葉県から通園していた児童とその家族を合わせて56名の広域集団発生となった。赤痢発生のあった保育園は,茨城県2保育園,千葉県1保育園であったが,これら3保育園は10〜11月中にいくつかの保育園行事を共同して実施し,そのつど園児および家族が交流していた。

 11月28日に県内竜ヶ崎保健所管内の保育園児が赤痢を発症し,まだ数名が下痢をしているという情報があった。さらに,園児宅への宿泊などを通して交流を密にしていた県内の古河保健所管内の保育園関係者にも下痢症状を訴える人がいて,すでに検査が始まっているとの情報が入った。3年前の水戸・県西地区に250人を上回る赤痢患者を出した時と同じような始まり方であったので,また同様な大規模な展開になるのではないかと思われた。検査が進むにつれ,患者は埼玉県,千葉県から通園していた園児および父兄にまで広がり,広域な集団発生となった。これらの感染経路の共通性と感染源を追及するべく検査を実施した。

 表1に県別患者発生状況,表2に施設別患者発生状況を示した。

 菌株の検査は,各保健所から搬入された後,ただちに実施され,すべての赤痢菌D群ソンネ菌と確認された。相別抗血清凝集反応検査でもT相菌と確認された。ニッスイ製薬のIDテストを使用した糖分解能パターンも同一で,IDテストのコード番号は(0041003)であった。

 薬剤耐性検査も,ほとんどの菌株においてストレプトマイシン,アミノベンジルペニシリンおよびジョサマイシンに耐性を示した。が,1株だけテトラサイクリンに感受性を示したので,その分離された患者の周辺を検討したが,直接接触したと思われる家族は臨床決定で隔離され,菌は分離されなかったので,それ以上の追跡はできなかった。

 コリシン型においては同一であったが,今後の調査研究が必要である。

 分離された赤痢菌株について上記の結果からは,同一菌による感染であるということが分かったが,臨床決定による隔離が多く,菌の分離率があまり良くなかったことが残念でならない。今回の集団赤痢は千葉県・埼玉県・茨城県と3県に関わる発生であり,3県による菌株のクロスチェックが必要と思われるが,それにもまして,今回のように3県にまたがる集団発生の場合,分離菌株などの処理は言うまでもなく,その他の情報交換などについても,組織を越えた協力体制が必要であると思われた。

 このような集団発生は,本県において初めてではなく,前回の教訓を生かし,認可されている福祉施設や保育園などには,年に1度,福祉部と衛生部の協力のもとに,衛生指導を実施してきた。しかし,無認可の保育所等にはその衛生指導が及ばなかった。しかも,そのような施設では衛生知識が低く,「今時赤痢に罹るはずがない。下痢なんてそのうち治る。」との判断が先にたち,患者の行動半径も大きくなり,感染が広範囲に及んだものと思われる。

 今後の課題としては,頻繁化された海外旅行の帰国後のセルフケアの必要性はいうまでもなく,衛生概念の意識改革が期待される。



茨城県衛生研究所
久保田かほる 武田 正 根本治育 原 孝


表1. 県別患者発生状況
表2. 施設別患者発生状況





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