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本事件の概要:1993年8月28日〜9月7日,わが国で5例目のVero毒素産生性大腸菌(VTEC)O157:H7・VT2による集団下痢症が当区保育園で発生した。溶血性尿毒症症候群(HUS)等の症状を含む発症者は園児68名中30名と園児家族10名で,本菌の検出者は園児12名およびその家族3名で,二次感染が示唆された。重症者や本菌検出者は3〜5歳園児に限られ(表1),その症状(表2)は下痢,腹痛,嘔吐が主で,入院した重症患児4名は頻回の血便・腹痛を呈し,うち3名がHUSを併発した。患者発生のピーク(図1)は8月30日で,感染は本菌の潜伏期間や発症状況等から8月23日〜25日頃と推定された。二次感染防止のため園児を含めて関係者等(1,149件)広範囲に検便を実施した。本調査の結果,集団発症の原因は食品を介した食中毒とは認められず,園内プール等における感染が示唆された。なお,本菌は薬剤11種にすべて感受性であった。
事件の探知と調査:9月2日保健所に,8月下旬から多数の園児が下痢および腹痛等を起こしているとの届出から,衛生課では緊急の食中毒調査を開始した。9月3日〜28日にかけて,園児とその関係者および調理従事者の糞便1,149検体,保存食,ふきとりおよび水等149検体が都立衛生研究所および当試験所に搬入された。
調査結果:検食,調理施設等から採取した調査時の検体からはいずれも本菌を検出しなかった。感染したとみられる頃の給食は,8月24日に発症者全員が喫食していたが,園調理室で十分に加熱し,すみやかに提供されており,1,2歳児にはVTECを疑わせる発症者もなく,給食関係からの感染はないと判断された。
飲料水系の調査では,受水槽内部の亀裂や配管に異常はなく,水質検査の結果も水道法に適合していた。また,廃水系統による給水設備への汚染も認められなかった。
9月3日調査時のプール(5×1.4×0.25m,コンクリート製)関係からはいずれも本菌を検出しなかったが,感染が疑われる23〜25日には発症者のほとんど,24日には3,4,5歳児の発症者全員がプールに入り,感染が疑われた。発症の2歳児1名は軽症で別件とみなされた。1歳児は別のビニールプールを利用していたが,13名中5名の発症はカゼ様の患児2名と軟便程度の患児2名他1名で,いずれも3,4,5歳患児のような重い発症状況とは異なり,また本菌も検出されなかった。
発症した関係者10名はいずれも園児家族で,3名から本菌を検出し,感染が示唆された。他に非発症関係者1名から本菌を検出したが,第三者であり,菌株性状も異なることから,本事件と関連がない保菌者である可能性もあった。
VTEC O157:H7 VT2の同定は,SIB培地上に発育したソルビトール非分解または遅分解性株の生化学性状とO157およびH7免疫血清で判定した。園児家族3名の検出株はBHI培地による1回の誘導で十分な運動性を認め,患児12名の菌株情報とよく一致した。他非発症者1名の菌株はH7免疫血清による凝集が弱く,鞭毛由来の運動性は弱く,回復するまで3回の誘導8日間を要し,リジン脱炭酸能も低く,若干異なる性状を示した。
O157:H7株をRPLA法で,VT産生の有無および型別試験を行った結果,いずれもVTEC・VT2型であり,Vero細胞試験(都立衛生研究所)等によっても確認された。
CP,TC,SM,KM,ABPC,SXT,NA,FOM,NFX,CEZ,LMOXの薬剤11種について,本株の感受性試験を行った結果,いずれも感受性を示した。適切な早期の薬剤治療は二次感染や重篤なHUSの併発を防ぐのに有効であると言えよう。
他の病原菌では,サルモネラを2名およびプレジオモナスを1名から検出した。
東京都杉並区衛生研究所
角田光淳 牧島満利子 佐野曉男 齊藤麻美
表1. クラス別発症状況
表2. VTEC(O157:H7・VT2)検出者15名の症状
図1. 発症日別の患者数
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