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Vol.16 (1995/4[182])

<国内情報>
1990〜1994年間に東京都立衛生研究所で同定された寄生虫


 国際化の時代とともに,海外渡航者および外国人就労者数ならびに輸入農産物・魚介・肉類の数量は飛躍的な伸びを示し,グルメブームによって魚介類や肉類の生食嗜好が広がって来た。その結果,1990年代に入ると,過去30年間に激減した寄生虫疾患が復活の様相を示し,同定依頼や相談が持ち上がるケースが多くなってきた。過去5年間に当所で同定された寄生虫(卵・原虫)について簡単に例示して若干のコメントを付し,注意を喚起したい。

 1. 海外からの輸入寄生虫(症)

 1)日本語学校就学生177名寄生虫卵保有状況:平均陽性率29.9%(53/177),内訳は鞭虫卵16.9%(30),回虫卵6.8%(12),回虫+鞭虫卵3.4%(6),鉤虫卵+鞭虫1.1%(2),鉤虫1.1%(2),肝蛭+鉤虫+鞭虫混合寄生0.6%(1)であった。2)台湾,サイパン旅行者2名から回虫の成虫各1隻が自然排出された例,3)中国残留帰国家族3名のうち5歳児から回虫成虫+回虫卵+鞭虫卵,父親から鉤虫卵,母親から鞭虫+回虫卵が見いだされた例,4)日本人海外渡航者2名から赤痢アメーバ嚢子,JICA研修性の肝膿瘍の膿汁から同栄養型が見いだされた例,5)赤痢アメーバ関係者検便で陰性にもかかわらず,海外旅行経験者2名からランブル鞭毛虫が見いだされた例,6)日本人の夫とパラグアイ出身の妻および5歳児が母国へ里帰りし,帰国後頑固な下痢症状を訴えランブル鞭毛虫が疑われていたが,父と子からクリプトスポリジウムが検出された例,7)アフリカ演奏旅行中腹部に腫瘤ができ,帰国後潰瘍部から圧出されたウジムシがヒトクイバエの幼虫と同定された本邦2例目の珍しいウジ症例に遭遇している。このように症例ごとのできるだけ詳しい聞き取り調査をこまめに行って検査の焦点を絞るとともに,経験ある人のネットワークを活用するべきであろう。

 2. 無農薬・有機栽培野菜から感染する寄生虫

 渡航歴のない人の肛門排出虫体10例および口から排出された虫体2例が回虫の雌雄成虫と同定された。過去20数年間あまり当所では経験のない事例が重なったため,保健所を通じて日常食べている野菜の調査を行った結果,契約有機栽培野菜1名,自家用栽培野菜(区民農園等)2名,実家からの直送野菜1名と,有機栽培野菜からの感染が示唆される回答が得られた。1990年以降,年平均130件の輸入野菜の虫卵検査を行ってきたが,陽性例は1例もない。一方,下水汚泥を主原料とする有機肥料12種類13件の虫卵検査を実施したところ,野積み発酵肥料の1例,100gから鞭虫卵とイヌ鞭虫卵が見いだされた。保卵者の便が汚泥に堆積され,加熱不十分な状態で有機肥料として流通されるとすれば,消化器系の寄生虫が再び土着蔓延する可能性もあるので,肥料発酵工程の改善が望まれる。

 3. グルメブームがもたらす食品媒介寄生虫

 1)苦情品および患者発生時の残品検査で見いだされた寄生虫:@アニサキス(弁当のサラダ,シメサバ,タラの昆布じめ),A鉤頭虫(おにぎりのタラコ),Bテラノバ(豚ロースのパック詰め),C四吻条虫類(ステーキ用牛肉,タラの煮付け),D粘液胞子虫(マグロ刺身の残物),Eシュウドテラノバ(アイナメの刺身,ヒラメの刺身)など,本来あり得ない寄生虫の混入事例が多発しており,スーパーや仕出し弁当業者に対し,調理・パック詰め作業工程を魚介類とその他の2工程に区分するよう,保健所を通じて指導を行った。その後このような混入事件は少なくなってきた。

 2)アニサキス症の集団発生例:タラの白子を湯通しせずに白子ポンズで食べた5名全員が食中毒様の症状を呈し,原因食の残物白子から7隻のアニサキス幼虫を見いだした。「生食用」の表示を信じた悲劇でもあり,魚屋さんには「うっかり表示」をしないよう指導した。

 3)便中に見いだされた条虫の片節による形態学的同定事例:@15歳の少年の便表面に蠢く白いウリの種状の片節を見つけ,無鉤条虫と同定(原因食は牛肉のタタキまたはレアステーキ),A50歳代の女性がたびたび便中に条虫の片節を認め,蟯虫の駆虫薬コンバントリンを服用,その効果なく,相談時持参の片節が本邦16〜17例目の米子裂頭条虫と同定,B本邦で最も症例報告の多い,サケ・マス類の生食による日本海裂頭条虫1例を同定,C都立豊島病院からプラジカンテルで駆虫した7.5mの全虫体と5mの一部老熟片節の同定依頼があり,2虫体ともに大複殖門条虫と同定,本虫は1984年以来,千葉県以西で132例と報告数が増加傾向にあり,東京では8例目にあたる。中間宿主,原因食となる魚種はいまだに不明である。



東京都立衛生研究所 村田以和夫





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