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Vol.16 (1995/5[183])

<国内情報>
ノーウォークウイルス関連遺伝子が検出された急性胃腸炎の2集団発生事例−青森県


ノーウォークウイルス(NV)関連の小型球形構造ウイルス(SRSV)による急性胃腸炎の集団発生が毎年のごとく冬季に各地でみられるが,当県においても今冬,当該ウイルスによると考えられる2つの集団発生があったのでその概況について報告する。

 事例1:1994年12月8日,三戸郡田子町の町立病院から嘔吐を主とする症状を訴えて保育所の子供達が受診したとの通報が所轄の保健所へあった。

 病院によれば嘔吐,腹痛,下痢等の食中毒様症状に加えて発熱を伴うケースが多く,風邪の疑いもあるとのことであったが,保健所では食中毒疑いの届け出を受けて調査に入った。

 初発は12月7日の午後2時頃で,翌8日にかけて嘔吐をもって発症しているものが多かった。発症者は全園児の72%(36/50人)であった。発生のピークは7日の午後4時〜8時で,この時間帯での発病が全体の50%(18/36)を占めた。症状は嘔吐89%(32/36),腹痛69%(25/36),発熱42%(15/36),下痢および吐気33%(12/36)で,嘔吐,腹痛,発熱が主であった。保母,調理人などの3人の職員のうち1人が同じ症状を呈していた。

 保育所の保母からの聞き取りでは7日の集団発生の何日か前から発病園児の2割ほどが嘔吐を伴わない咳などの一般の風邪症状で風邪薬を服用していたとのことであった。また,調査で発病園児の家族の47%が風邪をひいていたことが判明した。さらに,周辺地域の複数の病院からは本事例と同様な症状の患者が多数受診したとの情報も寄せられた。

 12月2日〜7日までの給食のメニューは豚肉のマヨネーズ醤油焼き,イワシの蒲焼き,カリフラワーのサラダ,果物などで,SRSV感染で注目されているカキはなかった。

 病原検索の結果,発病園児便,職員の便,調理場等のふきとりおよび検食からは食中毒起因菌等の病原菌は分離されなかったが,PCRで発病者便6検体中5検体からNV関連の遺伝子が検出された。電顕および細胞培養では不検出であった。

 事例2:1995年2月23日午後2時50分,八戸市内の内科医院から2月20日の夕方,市内の料理店で会社の同僚23名と会食した1人が2月22日午前8時頃から腹痛,下痢,嘔吐等の症状で受診,その後会社の職員16名にも共通の症状があったとのことから食中毒の疑いとして届け出された。

 保健所の調査によると発症者はその後,19名に増えた。発症率は83%(19/23名)であった。潜伏期は最短が2時間,最長が43.5時間で,平均31時間であった。症状は腹痛84%(16/19),悪寒58%(11/19),下痢53%(10/19),発熱,嘔吐,頭痛および倦怠感42%(8/19),吐気26%(5/19)と多彩であった。

 会食のメニューはカツオのタタキ,生ガキ,エビとホッケの刺身,寄せ鍋等で,非発症者4名中3名は生ガキを喫食していなかった。

 病原検索の結果,発症者便,調理従事者便および当該事例関連の収去生ガキからは食中毒菌は分離されなかったが,PCR法により4名の発病者中2名の便からNV関連の遺伝子が検出された。同検体について電顕により検査したが,ウイルスは認められなかった。また,PCR法により生ガキからの検出も試みたが陰性であった。

 なお,当該事例発生の前日の22日に同じ生産地のカキを喫食して類似の症状を呈し食中毒の疑いがあるとの通報が同保健所へあったが,調査を拒まれたため追及できなかった事例があった。

 以上のごとく事例の1つはカキの喫食が関係していると考えられたが,他の1つはカキ非関連の事例であった。急性胃腸炎の集団発生の原因食品としてカキが有力視されてきたが,今後はカキ以外の食品や水などによる発生をも念頭に置いて対応していく必要があるように思える。また,今回電顕によってSRSVが陰性であった2事例がともにPCR検査法で陽性であったことから考えると,PCRとの併用が原因究明に有効と思える。

 PCR検査法:RNA調製は検体のダイフロンS-3処理,ポリエチレングリコール濃縮,超遠心操作に続いてCTAB処理後,フェノール/クロロホルム法で行った。RT-PCRは42℃45分の逆転写後,熱変性94℃1分,アニーリング40〜53℃(下記プライマー順に40℃,46℃,43℃,53℃,43℃)80秒,合成72℃1分の35サイクルで行った。プライマーとしてはMoe(Journal of Clinical Microbiology,May,1994,p.642-648)らのNV35-36,51-3のほか,51-36,35-3の組み合わせに加えて,上記混合プライマーを使用した。検査は混合プライマーでスクリーニングを行い,疑わしい検体を個別のプライマーで確認した。



青森県環境保健センター
佐藤允武 三上稔之 木村淳子 大友良光 野呂キョウ 畑山一郎
三戸保健所
菊地裕子(現八戸保健所)
八戸保健所
竹内正子(現七戸保健所)





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