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Vol.16 (1995/6[184])

<国内情報>
腸管アデノウイルス(40/41型)が検出された保育園における嘔吐下痢症の集団発生例−広島市


 アデノウイルス40型,41型は腸管アデノウイルスと呼ばれ,散発性乳幼児下痢症の原因としてロタウイルスに次いで多く検出されている。1994年12月,広島市内の1保育園において嘔吐,下痢を主徴とする集団発生がみられ,ウイルスおよび細菌検査の結果,腸管アデノウイルス(Ad40/41,40型か41型かは未型別)が原因と推定されたので報告する。

 患者発生状況:12月13日,園児6名が吐き気,下痢をもって発症したのち,翌14日には21人が発症した。その後数名の発症がみられ,20日までに発症者は全園児105人中35人(33%)にのぼった(表1)。クラス別では60%(21人)が「もも組」(3〜4歳児の組)に集中し,主症状は嘔吐,吐き気,下痢であった。発症者のうち15人が医療機関を受診し,風邪(9人),(冬期またはウイルス性)嘔吐・下痢症(5人),腸の炎症(1人)と診断された。事件発生は集団風邪あるいは食中毒の可能性があるとして所轄保健所に届出がなされ,それらを対象に検査を実施した。

 細菌検査結果:発症者,調理従事者の糞便,食品,調理場のふきとり等について,食中毒菌および赤痢菌,チフス菌を対象に検査したが,有意な病原細菌は検出されなかった。

 ウイルス検査結果:「もも組」を中心とした発症者8名から採取された咽頭ぬぐい液4検体および糞便6検体について検査を実施した。咽頭ぬぐい液についてはMDCKを含む各種細胞でウイルス分離を行ったがすべて陰性であった。糞便についてはウイルス分離,電顕法(EM),Adenoclone®(Ad-C,すべてのAdを検出)およびAdenocloneE®(Ad-CE,Ad40,Ad41のみを検出)を用いたELISA,ロタウイルスRPHAを行った。その結果6人中4人からEMでアデノ様粒子が検出され,そのうち3例はAd-C,Ad-CEともに陽性となり,Ad40/41と同定された。これら3例はいずれも293細胞で分離陽性となり,現在40型か41型かの型別および株間の異同等についての解析を進めている。他の1例はAd-C陽性、Ad-CE陰性,ウイルス分離でAd2が分離された。他のウイルスはいずれも検出されなかった。

 以上の結果から,Ad40/41検出陽性例はいずれも「もも組」に限定されているが,症状が共通であること,発症が一時期に集中していること,ならびに他に有意な病原体が検出されなかったことなどからAd40/41による集団発生例と推察された。腸管アデノウイルスは通常0〜3歳の乳幼児の散発例として検出される場合が多い。本事例は通常より高年齢層での流行であること,および施設における集団発生であることの2点が特徴的であるといえる。一方,感染経路については特定することができなかった。一般的には糞口感染と考えられるが,集中的な発生であることから,食品を介した感染も否定できない。

 冬期に発生する風邪様疾患や食中毒様疾患の集団発生には主としてインフルエンザウイルス,SRVが関与しており,当初それらおよび細菌を念頭に検査された。臨床的にそれらの鑑別が困難な場合もみられ,さらに本事例のようにアデノウイルスが検出される場合もあり,血清採取を含め包括的な検査体制が必要である。



広島市衛生研究所
野田 衛 桐谷未希 阿部勝彦 池田義文 山岡弘二 荻野武雄


表1. クラス別発生状況





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