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裸頭条虫科のBertiella属条虫は約29種類報告されているが,それらの中で人体症例が報告されているのはアジアやアフリカのサルや類人猿を終宿主とするB. studeriとB. mucronataの2種類のみである。わが国でも輸入ザル類から虫体が,また日本ザルから虫卵が検出されていたが,1991年の三重県内での症例を契機として調査された結果,鈴鹿山脈に生息する日本ザルからB. studeriの虫体が検出され,その存在が初めて証明された(Ando et al., 1994)。本条虫の中間宿主はササラダニ類であり,これを誤って経口摂取した場合にはヒトにも感染する。
人体症例はアジアを中心として,本症例を含めて53例報告されている。それらの中でわが国においても,1991年三重県内で3歳6カ月の女児による最初の症例(小島ら,1992),1992年には大阪で,1歳11カ月の女児による症例(井関ら,1993)が報告されている
(本月報Vol.15,No.2,1994)。
ここで紹介する3例目の患者は三重県在住の23歳の男性で,1994年6月便中に約1cmの肉厚の白色体に気付き,近医を受診したが,民間検査機関では同定ができず,長く治療されなかった。最終的にB. studeriと同定され,硫酸パロモマイシンで駆虫されたが頭節は検出されなかった。
三重県内の2症例は患者がいずれも鈴鹿山脈山麓の猿の出没する地域に居住しており,また,ササラダニ類のハバビロオトヒメダニも生息しているため,この地域では今後も発生する恐れがある。
参考文献
Ando, K. et al.(1994):Jpn. J. Parasitol. 43, 211-218
小島荘明ら(1992):寄生虫誌,41(増),82
井関基弘ら(1993):寄生虫誌,42(増),129
三重大学医学部医動物学教室 安藤勝彦
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