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Vol.16 No.9(No.187)1995年9月発行
風疹は,発熱,発疹,リンパ節腫脹を主要症状とする感染症で,小児は一般に軽症である。妊婦が妊娠早期に罹患し,胎児が感染すると,先天性風疹症候群(白内障,心疾患,聴力障害)を起こす危険がある。これを予防するため,わが国では1977年から中学生女子(12〜15歳)に風疹生ワクチンの定期接種が行われてきた。さらに,1989年4月〜1993年3月まで,麻疹・おたふくかぜ・風疹混合(MMR)生ワクチンが,小児を対象に使用された。風疹の診断は臨床診断(+血清診断)が主であり,通常はウイルス分離の成績は報告されない。
本特集は1992〜1994年の風疹の動向を感染症サーベイランスによる患者発生状況と伝染病流行予測調査で明らかにされた健康者の免疫獲得状況から述べる。
感染症サーベイランス:風疹は春に流行がみられ,1981年7月のサーベイランス開始以来,1982年,1987年,1992〜93年と,ほぼ5年ごとに全国的流行があった(図1)。1992〜93年の流行は,前2回の流行に比べ規模が小さかった。
1992年は関東甲信越,東北,1993年は北海道,近畿,九州・沖縄で流行が目立った(図2)。1994年はどのブロックも報告が少なかった。
患者の年齢構成を図3に示す。0〜4歳群と5〜9歳群とを比較すると,4歳以下の割合は1990年以降次第に減少し,1992年には28%と最も小さくなり,1982年(33%),1987年(35%)を下回った。同割合はその後増加に転じ,1994年(44%)には5〜9歳の割合(38%)を上回った。
1995年(第32週現在まで)は鹿児島県で局地的な流行が報告されたのみで,全国的に患者報告は少ない(図1)。
伝染病流行予測調査:1993年の風疹感受性調査においては,女子4,084名,男子408名のHI抗体が測定された。15〜29歳の女子の抗体陽性率(≧1:8)は90%以上(平均96%)と男子(平均76%)に比べて高い。
1993年における女子のワクチン接種率は(表1),0〜4歳では25%(0〜1歳5.2%,2〜4歳35%),5〜9歳では40%であり,9歳以下のワクチン接種者のうちMMRワクチン接種者が3分の2を占めている。ワクチン接種率は15〜19歳では82%,20〜24歳では86%,25〜29歳では75%と高いが,30歳以上では低い。
1993年の女子の抗体保有状況を1987年の流行後の1988年と比べるため,調査時の年齢ごとに抗体陽性者のワクチン接種歴別に示した(図4)。中学生の時に風疹ワクチンの定期接種を受けた年齢層(1993年の時点で14〜30歳),およびMMRワクチン接種を受けた年齢層(同2〜7歳)にワクチンにより免疫を獲得した者が蓄積されている。1990年以降の0〜4歳と5〜9歳の患者の割合の変化(図3)はMMRワクチン接種の影響と推測される。
1994年10月に予防接種法が改正され,1995年4月からは生後12〜90カ月の小児(標準として12〜36カ月,および経過措置として小学校1〜2年生で90カ月までの者)と中学生男女に風疹生ワクチン定期接種が行われており,今後,これらの年齢層の風疹流行の抑制が期待される。
図1. 風疹患者報告数の推移(感染症サーベイランス情報)
図2. ブロック別風疹患者発生状況,1992〜1994年(感染症サーベイランス情報)
図3. 風疹患者の年齢分布,1982〜1995年(感染症サーベイランス情報)
表1. 風疹感受性調査における年齢群別ワクチン接種歴,1993年(女)
図4. 年齢別風疹抗体保有状況(女),1988年と1993年の比較(伝染病流行予測調査)
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