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Vol.17 (1996/2[192])

<国内情報>
嘔吐を主訴とした今季のウイルス性胃腸炎−東京都


 東京都衛研が定点としている2小児科医院における,今季のウイルス性胃腸炎の散発例の臨床症状とSRSV等のウイルス検索結果を紹介したい。

 1. 臨床的特徴

 1995年10月第2週(41週/1995年)から,嘔吐を主訴とする胃腸炎患者が来院するようになり,12月末までの患者数の増減は図1のとおりである。患者の年齢構成は0〜5歳が76%,6〜11歳が24%であった。

 問診より得られた患者89例の臨床症状の特徴を表1に示した。嘔吐は全体の91%に,下痢は全体の67%にみられ,初発症状は83%が嘔吐であった。嘔吐の持続日数をみると,嘔吐有症者の80%が2病日以下であった。1病日目における嘔吐の平均回数は3.3回,2病日目では0.7回であり,SRSVの特徴的臨床症状である「激しいが,持続は短い嘔吐」を示していた。

 2. PCR検討結果

 101例の患者についてSRSVのPCR検索を行った。患者便の遠心上清中のウイルスをポリエチレングリコールで沈澱させ,プロテイナーゼK,CTAB等を用いて核酸抽出した。1st PCRにはプライマーNV35/36,2nd PCRプライマーNV3/51とNV81/NS82の2種類を用いて,2段階PCR法でSRSVの有無を検討した。

 表2に示すように,96%にあたる97例にSRSVのウイルスに相当するPCR産物が検出された。うち2例はNV81/NS82のみで検出されたものである。今季の散発例では,2段階目のプライマーにNV3/51を用いたPCR法の検出率が高かった。なお,ELISA法でAdeno 40/41が3例に検出されたが,ロタウイルスは検出されなかった。

 3. 嘔吐物からのSRSV検出

 18例の患者については嘔吐物のSRSVのPCR検査を行った。核酸抽出とPCR検査は,便と同様の方法を用いたが,1例を除く17例にPCR産物が検出された。別に,遠心法で電子顕微鏡標本を作製し,電子顕微鏡によるウイルス検出を試みたが,明瞭なSRSVは観察されなかった。SRSVによる胃腸炎は人→人へと感染するが,便の他に嘔吐物からも感染することが疑われていた。今回の嘔吐物からのSRSV検出は,この事実を実証するものであり,SRSVの侵襲部位や発病機序解明の手掛かりとなろう。

 4. SRSVのPCR検査について

 SRSVのPCR法には,10数種類ノプライマーペアーが提案されており,さらにキャプシド領域を増幅する方法や,1st PCR産物を既知プローブでハイブリダイズするSouthern法など様々な方法がある。SRSVには複数の種類があることが知られており,その中の一部の塩基配列しか解明されていない現段階では,PCR法も1種類の方法に固定せずいろいろ試してみるほうが有用と考える。

 現在,SRSVの検査法としてPCR法が普及しつつある。SRSVによるウイルス性胃腸炎は,持続は短いが激しい嘔吐と下痢をもたらす疾患であり、少量のウイルスで人→人へり感染が広範囲に起きるので,公衆衛生上,常時監視を必要とする疾患である。しかし,PCR検査はウイルス核酸の抽出操作がめんどうで,多くの検査数をこなすには無理がある。実用的には,多種類のSRSVを同時に認識するELISA法の開発が早急に望まれるところである。



東京都立衛生研究所 佐々木由紀子


図1. ウイルス性胃腸炎患者数増減
表1. SRSV胃腸炎の臨床症状
表2. PCR検査結果





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