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Vol.17 (1996/3[193])

<国内情報>
1995年度の秋田県におけるムンプスウイルス検出状況−大館株のその後の調査成績


 我々は1993年に秋田県大館市で占部株様のRFLPを示すムンプスウイルス(MV)野生株を分離し報告してきたが,その後,全国23カ所の地研から分与していただいたMV分離株について調査した結果,同様のMV株が東日本各地で発生していたことが確認された。ここでは,その株の起源を調べる一環として行った遺伝子解析の結果と,その後の秋田県での検出状況について述べる。

 遺伝子解析はMV大館株のゲノム15kbのうち,NP,P,M,F,SH,HNの領域を含む8499bpについて行った。そのうち,Miyahara株(野生株代表)および占部株との相互比較可能な8385bpについて塩基配列を比較したところ,大館株の特徴として次の結果が得られた。

 @RFLP鑑別法(A. Yamada et al.,Vaccine 8:553-557,1990)に利用されるP遺伝子のBam HI切断部位は占部株と同一であったものの,F遺伝子の他の鑑別マーカー(T. Forsey et al.,J. Gen. Virol.,71:987-990,1990)による判定では“通常の”野生株であった。

 A占部株はMiyahara株と比較して上記の8385bpの領域内に150カ所の塩基置換があったが,そのうち大館株でも共通して認められたのは半分以下の63カ所にすぎなかった。

 以上の2点から,当初懸念されたワクチン株の野生化は否定されたと考えられる。しかも,このMV株は,秋田県内では,1994年1月17日を最後に検出されなくなった。

 秋田県内では図1のように,1995年の第45週(11月)から流行性耳下腺炎が流行したが,これは県内全域ではなく,大曲市を中心とし,これに隣接する本荘市と横手市が加わった地域における流行であり,得に,大曲市での流行規模はかなり大きかった。また,下記のMV分離材料を多数採取した秋田市でも多発状態が続いた。しかし,この流行・多発も年明けとともに次第におさまりかけてきている。

 このような流行・多発を挟んだ1994年2月〜1996年2月の2年間に167例のMV検査を行い,PCR直接検出と分離培養によって119例のMV(分離は69株)を検出したが,すべて従来の野生型であった。そのうち,今年度(1996年2月まで)の検査成績100例について月別検出状況を図2に示したが,図1の患者発生状況と同様に,晩秋から初冬にかけてMV陽性例が増加した。一方,当所ではムンプス検査に当たって分離培養とnested PCRによる直接検出を併用しているが,両法の検査成績を比較してみると,図3のごとくであった(検査件数は100例であるので,検出数はそのまま検出率に読み替えられる)。PCRで直接検出されたのは65例であるが,このうち20例はnested PCRをせずに一度だけのPCRで検出されている。両法を比較すると,いずれも50%以上の検出率であったが,直接検出成績の方が分離成績をやや上回った。また,分離培養には,一般に用いられているVero細胞の代わりに,当所で樹立したヒト胎児由来細胞のHEAJ細胞を用いて分離率を上げているが,この細胞は維持が容易で,しかも,MVのみならずエンテロウイルスやアデノウイルスなどにも広く感受性があるため,当所ではルーチン検査に重用している。

 MV大館株の場合,無菌性髄膜炎の合併率が非常に高かった(H. Saito et al.,Microbiol. Immunol.,40:No.4,1996,in press)ので,今後も監視を続ける必要があるが,これまでの検査では,いずれも局地的に一過性に発生していた。それだけに,広範で継続的な監視が必要ではないかと考えている。

 最後に,MV分離株を分与していただきました23カ所の地研,ならびに検体採取に御協力いただいた県内の定点観測病院に深謝します。



秋田県衛生科学研究所 斎藤博之 佐藤宏康 田中恵子 原田誠三郎 森田盛大
国立予防衛生研究所 山田章雄 山崎修道
大野小児科医院 大野 忠
大館市立総合病院 高橋義博


図1 感染症サーベイランス患者情報からみた秋田県内における流行性耳下腺炎の発生状況
図2 1995年度のムンプスウイルス検出状況(秋田県)
図3 ムンプスウイルスの検出法による成績比較





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