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Vol.17 (1996/5[195])

<国内情報>
アデノウイルス7型による急性呼吸器疾患の集団発生事例−山梨県


 1995年6月9日,15歳〜24歳の健常者の居住するA寮から,インフルエンザ様疾患の集団発生の連絡が入った。在寮者から検体を採取してウイルス検査を行ったところ,アデノウイルス7型(Ad7)が分離され,Ad7による集団発生であることが明らかになった。

 Ad7は,わが国ではここ10数年,分離報告数が少なかったが,1992年に愛知県(本月報Vol.16,No.1)から,1995年には広島,奈良県など(本月報Vol.16,No.11)から報告されているが,いずれも散発例である。本県で発生した集団発生は最近,稀な事例と考えられるが,関係者からの要望がありその一部を報告する。

 流行経過:A寮内での初発患者は,5月9日に寮内のJスポーツクラブで運動中に突然の寒気と頭痛をもって発症し,病院に受診したが40.0℃の高熱と倦怠感が強く,点滴しても高熱が続いた。11日からは下痢,喉の痛み,多少の咳が加わり,かぜ様症状が4〜5日続き治癒へ向かった。このJクラブ内では同様の症状を示す者が10日から順次発生し,起食を一緒にする在寮者202名の寮内へ蔓延していった。

 流行は6月末の終息までのおよそ2カ月間に数峰のピークを作り蔓延し,その中で発生者が最も多かったのは6月初旬〜中旬にかけてであった。その間発症者は145名を数え,発症率72%を示した(図)。

 この流行は,寮という特殊性とJクラブが重なりあって大きな発生になったと考えられ,また,高熱や肺炎などで入院した患者31名という重篤の症状を示すものであった。

 後日,在寮者202名のうち184名についてアンケート調査を実施したところ180名から回答が得られ回収率は98%であった。アンケートでの発症率は71%であった。

 これらの発症者の特徴的な症状は高い発熱であった。全員の最高体温が37.5℃以上で37℃台はわずかに2名(1.6%)で,38℃台は15名(12%),39℃台は68名(54%),40℃以上は42名(33%)であった。また,38℃以上の高熱が続いた日は2〜5日の者が多く85名(67%),8日以上続いた者も8名(6.3%)あった。その他の主な症状は倦怠感91名(72%),頭痛90名(71%),食欲不振77名(61%),喉の痛み74名(58%),下痢66名(52%),咳63名(50%),吐き気42名(33%)で,眼の症状を訴える者は14名(11%)と少なかった。

 ウイルス分離と同定:発症者12名から採取された咽頭ぬぐい液について,HEp-2,RD-18S,CMK,Veroの4種類の細胞を用いて分離を行った。11名がHEp-2で分離陽性となり,中和法によって同定した結果,全株ともデンカ生研製の抗Ad7血清(20単位)で中和されAd7と同定された。このうち4株についてDNAの制限酵素切断パターン解析を広島市衛生研究所の野田 衛氏に依頼したところ,5種類の制限酵素による遺伝子学的解析では山梨県の4株は全く同じパターンを示し,そのうえ広島株とも区別できない検査結果であった。

 今回のこのAd7がどのようにA寮内に持ち込まれたのかをさらに追跡調査したところ,Jクラブへ通う寮外者Bからの可能性が高くなった。Bは5月4日に発症し,Bの弟(中学2年生)が4月28日に同様な症状で発症していた。疫学的調査については現在も続行中である。



山梨県衛生公害研究所
渡辺由香里 小澤 茂 町田 篤彦 藥袋 勝


図 日別発症者推移





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