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Vol.16 (1995/11[189])

<国内情報>
急性呼吸器系疾患患者からのアデノウイルス7型の分離−広島市


 アデノウイルス7型(Ad7)は急性呼吸器系疾患,咽頭結膜熱などの病因として広く知られているが,わが国での分離はこれまで稀であった。しかし,1992年愛知県においてAd7の多発が報告され (本月報Vol.16,No.1), その動向が注目されていた。今回広島市においても急性呼吸器系疾患患者2名からAd7が分離されたのでその概要を報告する。

 臨床経過:Ad7は広島市結核・感染症サーベイランス事業により,1定点病院を受診した患者2名から分離された(表)。患児A(1歳1カ月,女児)は1995年4月初旬約1カ月,断続的に発熱が続いた後5月6日に外来を受診し,急性気管支炎,急性中耳炎と診断された。12日に中耳炎の治療を受けるが,以後も39〜40℃の発熱,咳等が続き,23日に入院した。輸液等による治療後徐々に回復し6月1日に退院した。一方,患児B(1歳4カ月,男児)は6月2日に発熱,咳,軽い下痢等で発症した。8日に外来を受診し急性肺炎と診断され入院した。その後,輸液等による治療を受け徐々に回復し,14日に退院した。

 ウイルス分離と同定:患者から採取された咽頭ぬぐい液について,ヒト胎児繊維芽細胞(HE),HEp-2,RD-18S,Veroの4種類の細胞を用いてウイルス分離を行った。1例はHE,HEp-2,RD-18Sで,他はHE,HEp-2で分離陽性となり,国立予防衛生研究所分与の抗Ad血清を用いた中和試験の結果,抗Ad7血清(20単位)で中和され,Ad7と同定された。

 ウイルスDNA切断解析:広島市においては初めての分離であることから,同定結果を遺伝子的に確かめるためにBamHIT,BglU,HindV,SmaTの4種類の制限酵素を用いてウイルスDNAの切断パターン解析を行った。その結果,Ad7標準株とは全く異なるパターンを示した。しかし,Adrianら(Arch. Virol. 106:73-84,1989)が報告したAd7分離株にみられるパターンおよび同時に解析した中国での分離株(札幌市衛研分与)のパターンと一致したことから,遺伝子的にもAd7であることが確認された。また,分離2株の間に切断パターンの違いは認められなかった。

 以上のように急性呼吸器系疾患患者2名からAd7が分離された。Ad7感染は肺炎等の重篤な症状を引き起こすことが知られており,今回の2例も入院,治療を必要とし,重篤な症状を呈していた。

 今回どのような感染経路でAd7感染が起きたのかは興味が持たれるところであるが,これに関する疫学的データは得られていない。DNA切断パターンの解析では,Ad7標準株とは異なり,中国の分離株と一致した。しかし,わが国のAd7分離株についての解析はこれまで行われておらず,国内の常在株か海外からの輸入株かは明らかでない。一方,抗体保有状況については,広島市において1989年に採取された0〜84歳の血清251例で検討した結果,Ad7に対する中和抗体保有率は3%以下で,Ad3の約40%と比較して極めて低い値を示した(未発表データ)。このことは,広島市においてAd7が分離されていなかった事実と一致し,Ad7の侵淫はこれまで極めて稀であったことを示唆している。

 Ad7は,諸外国において多く分離されているにもかかわらず,わが国ではこれまで流行を起こさなかった。しかし,愛知県,本市の例にみられるように,最近,顕在化の傾向を呈しており,本ウイルスの動向に注目する必要がある。

編集委員会註:アデノウイルス7型分離の報告は,1995年に入って広島市のほか,奈良県,横浜市,秋田県の各地研からもあった (本号参照)。 山梨県衛研でも7型と疑われるアデノウイルスが分離されている。ちなみに,病原微生物検出情報事務局へ報告されたアデノウイルス7型の分離数は,1982〜93年の12年間にわずか28であった(Jpn. J. M. S. B. 48:199-210,1995)。



広島市衛生研究所
野田 衛 桐谷未希 阿部勝彦 池田義文 山岡弘二 萩野武雄


表 アデノウイルス7型分離例





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