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Vol.17 (1996/5[195])

<国内情報>
鶏卵が汚染源とみられるSalmonella Enteritidisの大規模集団食中毒−青森県


 1996年2月11日(日),青森市内のHホテルの結婚披露宴に出された「伊勢えびの黄味焼」摂食によるSalmonella Enteritidis(SEと略)の大規模集団食中毒事件が発生し,原因食品の原材料の一つである鶏卵の残りからもSEが分離されたのでその概要を報告する。

 13日午後2時30分,五戸町の住民から青森保健所に,10日青森市内のHホテルで行われた結婚披露宴(K家・Y家)に出席した数名が11日から下痢,腹痛,発熱等の食中毒症状を呈し,うち1名が入院しているとの通報があった。さらに八戸市内の開業医から八戸保健所に,同ホテルの別の結婚披露宴(S家・T家)に出席した2名が同様の症状で治療を受けているとの連絡があった。その後の青森保健所の調査により,発病者はすべて10日〜12日までにHホテルで行われた結婚披露宴等11組中5組の出席者およびその家族であることが判明した。4月15日現在,喫食者数753名,発病者数427名(患者数274名,入院者数43名,自宅療養110名)に達している。

 検体は14日午前9時15分〜15日午後5時55分にかけて,12回に分け断続的に環境保健センターに搬入された。その内訳は発病者便65,患者の吐物1,原材料の残置鶏卵1(138個数),持ち帰り等の食品26,調理器具等の拭き取り20,調理従事者等便31の合計144検体であった。患者が広く県内外に散在していたため検体を搬入した保健所数は県内11保健所中7保健所にのぼった。

 細菌学的検査は常法に従ったが,鶏卵からのSEの分離は次の方法で行った。ホテルに残置されてあったダンボールケース入り鶏卵138個を,個々に外観を確認しながら殻付きのまま無菌的に滅菌ビニール袋(150mm×100mm)に投入して均等化し,その1mlを滅菌スポイトで4mlのEEMブイヨン入り小試験管(10mm×90mm)に撹拌しながら接種し,37℃で24時間の一次増菌培養を行った。次に,増菌液各100μlを5mlのセレナイト―シスチンブロース(Difco)入り小試験管に接種し,43℃の温浴槽中で24時間二次増菌培養を行った。分離培養はDHL寒天培地を用いた。

 その結果,発病者28名と調理従事者等4名の便,そして食品12検体からSEが分離された。食品中「伊勢えびの黄味焼」は3検体あり,すべてからSEが分離され,その菌数はそれぞれ1gあたり3.0×103,4.0×103,1.2×106個であった。他の食品から分離されたSEはすべて増菌培養液から分離されたものである。また,「伊勢えびの黄味焼」の「黄味」の原材料となった鶏卵と同一ロットの残置鶏卵138個中1個からもSEが分離された。供試された鶏卵は大きさが全体的に不揃いで,卵殻の表面にやや透明な小斑点が多数見られたものが多く,しかも卵殻が脆弱で中には亀裂の見られるものもあった。ただし,SEが分離された鶏卵の卵殻には亀裂は認められなかった。「黄味」は鶏卵120個分の卵黄に食塩,コショウ,レモン汁,マスタード,サラダ油を加えて味付けし混合されたものであり,「伊勢えびの黄味焼」は,冷凍伊勢えびを解凍後,身を一時取り出して蒸し,これを元の殻に半身に詰め直した後に「黄味」を塗布し5〜10分間オーブンで焼かれたものである。今回分離された分離菌のファージ型はすべて4型であった。一方,SEが分離された調理従事者等4名(他に医療機関で2名確認)は,すべて「伊勢えびの黄味焼」を摂食しており,しかも海外渡航歴や10日以前の下痢症状も無かったことから,原因食品の摂食前の保菌者とは考えられなかった。

 以上より,今回の集団食中毒事件の発生原因は,SE汚染鶏卵によって汚染された「黄味」の不適切な取り扱いが原因で菌の増殖を許してしまったこと,さらに,それに続く加熱調理の不適切さ等も関係したものと思われた。

 本県ではこれまで,SE食中毒発生に際し,関連した鶏卵から当該菌が分離されたケースは今回の例を含めて4件となったが,さらに本事例後の3月には,鶏卵関与が疑われた4件のS. Infantis(SI)食中毒中1件において,鶏卵124個中2個からSIが分離されている(1つは卵内汚染,他は卵内外かは不明)。これらの事例における鶏卵のサルモネラ汚染は,ほぼ100個に1個であり,従来言われている1万個あるいは5千個に1個の頻度に比べ,はるかに高率である。食中毒事例に関与した鶏卵から何故このように高頻度にサルモネラが分離されるのか,その原因究明に関し今後,鶏卵中のサルモネラの保存性と増殖性,さらには検査時期や検査方法を含めた検討が必要と思われる。鶏卵からのサルモネラ分離には多量の培地と多くの労力を要し,しかも徒労に終わることが多い。しかしながら,わが国における鶏卵の汚染実態を明確にするためには,鶏卵関連の食中毒が発生した場合,状況証拠だけで鶏卵との関係を論じず,事件に関連した鶏卵を積極的に検査に供する必要があると考えられる。



青森県環境保健センター
大友良光 野呂キョウ 三上稔之 佐藤 孝
青森保健所
木村将人 三橋一史 磯嶋 隆





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