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1995年8月末,中国およびインドを旅行中の男性に下痢および発熱が発症し,9月初め帰国後も治癒しないため当院を受診した。患者の下痢便からは,活発に運動する多数の鞭毛虫(写真)が検出された。固定して染色標本を作製し精査したところ,虫体は洋梨型あるいは円型で,大きさは長さ11.7〜17.5μm,幅7.9〜12.2μmで,虫体前部には3本の鞭毛(写真:矢印)が認められた。また,虫体内には1個の核および細胞口が認められた。これらの特徴から,メニール鞭毛虫(Chilomastix mesnili)の栄養型と同定した。
メニール鞭毛虫は,1910年にWenyonによって発見され,一般に世界中に分布しているが,特に高温地帯に多く,わが国では比較的珍しい原虫である。通常はヒトの盲腸および結腸などに寄生するが,サルやブタでも寄生するといわれている。感染は主に嚢子の経口摂取によるもので,その病原性については不明な点が多い。今回の症例では下痢便中に多数の原虫が認められ,患者はフラジールによく反応し治癒した点などから,この原虫が下痢の原因虫と推定された。また過去にも本虫が下痢便に見出されたという報告がある。今後,メニール鞭毛虫に病原性については,さらに注意を払う必要がある。
近年,国際交流は年ごとに活発となり,1993年度で1,193万人もの邦人が海外へ出かけているという。これらの旅行者の中には,寄生虫症が未だに蔓延している熱帯や亜熱帯地域へ出掛けていく人も多い。したがって,わが国ではあまりみられなくなった寄生虫による感染がいわゆる輸入症例として持ち込まれる機会は増加する一方であり,これらの症例に常に注意しておく必要がある。
高知医科大学医学部付属病院検査部 森本徳仁 佐々木匡秀
高知医科大学医学部寄生虫学教室 是永正敬 橋口義久
高知医科大学医学部臨床検査医学教室 佐々木匡秀
写真
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