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Vol.17 (1996/6[196])

<国内情報>
SRSV胃腸炎の集団発生においてみられた二次感染例について−北海道


 小型球形ウイルス(SRSV)による食中毒様急性胃腸炎の集団発生の場合,主に一過性の発生形態をとり,二次感染はみられないことが多い。

 この度,1995年12月初旬に北海道南部の小学校で集団発生した急性胃腸炎について試験を実施したところ,SRSVが検出され,二次感染と思われる患者の発生も確認することができたので紹介する。

 本事例は,小学校児童,教職員を中心に200名を超える発症者数を記録したもので,臨床的特徴は,突然の強い嘔気に次いで激しい嘔吐を数回から10回程度繰り返すほか,発熱,下痢,腹痛などであった。症状の持続期間は2日程度と短かったが,輪液などの処置を受けた患者が多数いた。

 細菌検査では,患者糞便から病原細菌は検出されなかったため,細胞培養法,ラテックス粒子凝集(LA)法(第一化学薬品),電子顕微鏡観察およびRT-PCRの各法にてウイルスの検索が実施された。

 RT-PCRは,Jiang et al.のCTAB法でRNAを抽出し,Utagawa et al.(Arch. Virol.,135,185-192,1994)のプライマー#2を使用して逆転写後,プライマー#1,#2を用いて35サイクル(95℃1分,52℃2分,72℃3分)のPCRを実施した。

 細胞培養法でウイルス分離陰性。LA法の結果においてもロタ,アデノウイルス共に陰性であったが,電子顕微鏡観察の結果,40検体中4検体からSRSV様粒子が認められ,さらにRT-PCRによってこれらの検体から増幅DNA断片が検出された。以上の結果から,本事例の起因病原体は,Norwalk-like virusであると推定された。なお,感染経路について想定される複数の事項について検証したが,特定には及ばなかった。

 さて,今回の事例において注目される二次感染の概要は次のとおりである。

 SRSVが検出された家族は小学校児童の妹(4歳)で,その姉(小学2年生)の発症日から2日後に発症していた。症状は姉と同様で,嘔吐,発熱,腹痛などであり,下痢がひどくなかったことも姉と共通していた。姉が発症したころには姉はほぼ回復していた。なお,姉の下痢は1度のみで糞便採取はされておらず,ウイルス検索を実施できなかったため,同一ウイルス株による胃腸炎であるという実験室データは得られていない。

 また,検査は実施できなかったが,その後の疫学調査により,1世帯で児童の発症2日後にその父および妹にも同様の胃腸炎症状があったほか,発症日は特定できなかったが,児童が発症したころに,就学前の幼児(児童の兄弟)や児童の父母,祖父母にも同様の症状を呈した者がいたことが明らかになった。

 これらの事例は,実験室データは不十分ではあるが,同様の症状を呈していることや,発症日のずれが2日程度であることなど,家族内感染を想定するには十分であると考えられる。

 このように,当初,発症者が小学校児童および教職員に限られると思われたこの集団胃腸炎は,二次感染が想定される患者の発生も確認され,SRSVの伝播形式について,改めて公衆衛生上の問題として調査研究が必要かつ重要であることを示唆しているといえる。

 本事例で検出したSRSVの性状は現在解析中であり,詳細な解析結果は別の機械に述べる予定であるが,本州の株とは塩基配列がやや異なることを示唆するデータを得ており,国内のSRSV株の実態解明には全国的な調査研究が望まれるところである。



北海道立衛生研究所ウイルス科
濱岡直裕 吉澄志磨 野呂新一 沢田春美
同 生物工学室 大山 徹
国立予防衛生研究所 宇田川悦子
札幌医科大学 谷口孝喜 浦沢正三





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