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Vol.17 (1996/9[199])

<国内情報>
市販生レバー等からの腸管出血性大腸菌の検出例−福岡市


 福岡市では,平成8(1996)年6月14日〜28日にかけて,保育園児37名とその家族等11名(計48名)のO157集団感染症が発生した(原因は未解明)。また,散発事例は市内全域で発生しており,6月下旬〜8月上旬までですでに約30例に及んでいる。このような状況を受けて,現在,市販食品等からの腸管出血性大腸菌(以下VTECと略)の一斉検査を行っているが,そのうち生食用レバー等からVTECが7例検出されたのでその概要を報告する。

 検査方法:検査方法は,O157のみではなくVTECを対象とするため,Karmali,M.S. らが報告(J. Clin. Microbiol.,22,614,1985)した「コロニー掻き取り法」を用いて図1の方法で行った。

 分離培地には亜テルル酸カリ含有(2.5mg/l)SMAC(Zadik,P.M. ら,J. Med. Microbiol.,39,155,1993)がVTECの選択性に非常に優れているため,SMACと併用して用いた。SIBを用いる場合は,平板上でのVT1の産生が悪くRPLA法でのVT検出には不適であったが,PCRを用いる場合には支障がなかったので,場合によっては併用した。また,「コロニー掻き取り法」のRPLA法では時々非特異凝集が見られる場合があったため,未感作ラテックスの凝集の有無のチェックを必ず行った。VTEC株を探す際のコロニー釣菌は,操作が簡便なため滅菌爪楊枝による釣菌を行った。大腸菌株の選別には,2枚の平板[シモンズクエン酸培地とフルオロカルト寒天(メルクジャパン)]に塗布する方法を用い,1検体当たり約100個のコロニー釣菌を行った。なお,O抗原およびH抗原の血清型別は市販「病原大腸菌血清型別セット」(O抗原用またはH抗原用;デンカ生研)を,RPLA法は「ベロ毒素検出用RPLAキット」(デンカ生研)を,PCR法は「VT遺伝子検出用プライマーセット」(TaKaRa)をそれぞれ用いて行った。

 検査結果:7月17日〜8月7日に保健所が収去した食肉類(内臓類,牛豚鶏肉,食肉加工品等)90件中7件(7.8%)からVTECが検出された。検体別の陽性数および検出されたVTECの型を表1に掲げた。VTECは,生食用牛レバー1件からO157:H7(VT1+VT2)が,牛せんまい1件からO157:H7(VT2)とO群不明:H−(VT1)が,牛その他内臓(大腸)1件からO157:H7(VT1+VT2)が,牛ホルモンミックス1件からO157:H7(VT1+VT2)が,牛さがり肉1件からO群不明:H−(VT2)が,ラム肉(密封包装品)1件からO群不明:H−(VT1+VT2)がそれぞれ検出された。

 まとめ:O157検査法としては,SMACまたはSIB平板上のソルビット非分解コロニーを釣菌する方法や,O157抗体を利用してELISA法により検出する方法または磁気ビーズにより集菌する方法が示されている。

 ヒトの下痢症から分離されるVTECはO157以外にもO26やO111など多数の血清型が知られており,それらはO抗原の種類だけでも30種を超えている(竹田,食品衛生研究,41(7),7,1991,伊藤,モダンメディア,39,307,1993)。

 私どもが今回行った「コロニー掻き取り法」は,O157以外のVTECの検出も可能であり,その含有比率が大腸菌コロニーの1%程度でも検出が可能であった。今回の成績でも,VTECが検出された7例のうちすべてで,釣菌した100コロニー中,VTECは1〜4個程度の検出率であり,微量のVTECの検出やO157以外のVTECの検出も可能であった(なお,今回分離したVTEC,O群不明株は現在,予研に型別を依頼している)。



福岡市衛生試験所 小田隆弘 椿本 亮 池田嘉子 財津修一


図1 食品からのVTEC検出法
表1 食肉類からのVTECの検出数





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