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Vol.17 (1996/9[199])

<国内情報>
汚染された水道水によるクリプトスポリジウム症の集団発生−埼玉県


 町営水道を原因としたクリプトスポリジウム・パルブムCryptosporidium parvum(以下,C. parvum)による集団下痢症が埼玉県越生(おごせ)町で発生したので報告する。全国でも初めての広域にわたる事例であろう。

 越生町は埼玉県の西部に位置する緑豊かな観光地として知られる,人口13,000人余りの小さな町である。1996年6月10日(月),町の教育委員会は小,中学生に下痢,腹痛,吐気および発熱による欠席者が多いという状況を把握し,越生町保健センター,校医と協議した結果,坂戸保健所へ集団下痢症の可能性があることを連絡した。坂戸保健所による調査では,学校給食は自校方式であることや一般住民にも同様の症状の患者が多数いることがわかり,衛生研究所に検査依頼をした。

 6月12日(水),衛研では,細菌,ウイルスの両面から患者と給食従事者の糞便,咽頭スワブ,学校の水道水および学校給食の食品等の検査を開始したが,2日後の14日(金)になっても疑わしい病原微生物は検出されなかった。そこで,患者の発生状況から汚染された水道水による感染の可能性を考慮し,通常の塩素消毒に対しては耐性を示す原虫類に関して糞便検査を実施した。その結果,一部の患者便からC. parvumのオーシストを検出した。なお,赤痢アメーバEntamoeba histolyticaおよびジアルジアGiardia lambliaは検出されなかった。大阪市立大学医学部の井関基弘助教授に確認をしていただいた後は,C. parvumに限定して検査を実施した。18日(火)現在,34名中22名(65%)の患者便からC. parvumが検出された。

 越生町の環境水からのC. parvumの検出については,所内に「越生町下痢症状対策委員会」のプロジェクトチームを作り,井関助教授に技術指導を受け実施した。約20lの原水をフィルターで濾過し,トラップされた原虫をモノクローナル抗体を用いる米国製の蛍光抗体法キットによって検出した。

 その結果,町の浄水場で処理した上水,その原水である越辺川および麦原川,また2か所の下水処理場の排水からC. parvumを検出した。一方,一部供給されていた県水からは検出されなかった。これらのことから,町の浄水場の原水である河川水がなんらかの原因で汚染され,これを浄化できないまま供給された水道水を飲用したために,多数の住民が感染したものと推察された。

 詳細については,現在検討中である。



埼玉県衛生研究所 羽賀道信
坂戸保健所 山田 勉





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