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肝蛭は牛や羊などの反芻動物の肝臓に寄生する吸虫で,畜産行の盛んな欧米諸国では多数の人体感染例が報告されており,重要な人獣共通寄生虫病の病原体として知られている。日本ではこれまでに100余例が報告されている。九州では福岡,長崎,大分から症例報告があるが,なぜか畜産業の盛んな中南部九州からの症例報告はこれまでなかった。最近我々は著明な好酸球増多と肝/肺の結節性病変を示す症例が南九州の比較的狭い地域に集中して発生していることに気付き,これがブタ蛔虫による幼虫移行症であることを証明したが(本月報Vol.17,No.8参照),類似症例の免疫血清検査を行なっているうちに,短期間に7例もの肝蛭症を中南部九州でみいだした。
患者は宮崎県1例,熊本県2例,鹿児島県4例,年齢は50〜70代で,男女比は3:4であった。患者の職業は様々であるが多くは兼業農家で,自宅に牛を飼育していたり,牧場に隣接して居住していたり,牛糞を肥料として利用していた。主訴は上腹部痛あるいは上腹部不快感で,全例に高度の好酸球増多が認められた。画像診断において,7例中6例に肝実質内病変が認められ,胆管細胞癌を疑われた例もあった。検便では全例虫卵陰性であった。肝実質内病変が認められなかった一例では,逆行性胆管造影により,拡張した総胆管内に動いている虫体像を認め,十二指腸液から虫卵が検出された。Dot-ELISAによる各種寄生虫抗原を用いたスクリーニングでは全例肝蛭抗原に陽性反応を認めたが,その他の寄生虫抗原に強く反応する例もあり,本法単独での確定診断は困難であった。しかしながら,Ouchterlony法では全例肝蛭抗原のみに明瞭な沈降反応を認めた。この地方は食肉用の牛や豚の飼育が盛んなことから,高度の好酸球増多を伴う肝病変の症例に遭遇した際に,ブタ蛔虫による幼虫移行症とともに,本症についても考慮する必要がある。
肝蛭症の治療に関しては,ビチオノールが有効であるが,本剤はすでに製造中止になっており,現在はプラジカンテルが吸虫類に共通して有効な駆虫薬として用いられている。しかしながら肝蛭症の先進国である欧米諸国から,すでに本症に対するプラジカンテルの有効性に疑問が呈示され,トリクラベンダゾールの使用が勧められている。わが国においても,本症の治療についての検討が至急なされる必要があるだろう。
参考文献
(1)影井 昇 IASR 14(5):7-8,1993
(2)Maruyama,H. et al.,Jpn. J. Parasitology 45:in press,1996
(3)Arjona,R. et al.,Medicine(Baltimore)74:13-23,1995
宮崎医科大学寄生虫学 名和行文
名古屋市立大学医学部医動物学 丸山治彦
鹿児島大学医学部医動物学 野田伸一
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