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アデノウイルス7型(Ad7)は,これまでわが国の分離は稀であったが,1995年以降全国的な広がりをみせている。1996年3月には,千葉県内の病院においてAd7による死亡例が報告され,社会的問題となった。このような状況の中,当所においてAd7による家族内感染と考えられる症例を経験したのでその概要を報告する。
臨床経過:1996年3月下旬〜4月上旬にかけて,四街道市内の1家族で見られた。初め5歳長女が3月24日熱性痙攣で発症,以後39℃以上の高熱が持続した。また,25日より咽頭痛,26日より下痢も見られた(臨床診断名;浸出性扁桃炎)。次いで9カ月次男は,3月30日から39℃台の発熱と下痢で発症,4月2日〜4似まで大泉門膨隆を認めるものの髄液に異常はなかった。4月3日より結膜炎も見られた(臨床診断名;胃腸炎,結膜炎,メニングスムス)。10歳長男は,4月5日から39℃台の発熱と咽頭痛が見られ,その後下痢も見られた(臨床診断名;浸出性扁桃炎,胃腸炎)。3兄弟の発熱期間を図1に示した。
ウイルス検査:4月8日,10歳長男から咽頭ぬぐい液,便を採取しウイルス分離を行った。細胞は,HaLa,Vero,CaCo-2を用いた。2検体とも,HaLa,CaCo-2で1代で分離陽性になったが,ウイルスの増殖はHeLaの方が良好であった。予研分与のアデノ抗血清(20単位)を用いた中和試験の結果,Ad7と同定された。また9カ月次男のペア血清について,民間検査期間でアデノCF試験を行ったところ,<4→8倍の抗体上昇を認めた。
以上ように,Ad7を分離したのは1名だけであるが短期間に同様の症状を示したことから,3兄弟はAd7による同胞内感染をおこしたものと考えられた。アデノウイルスは,飛沫感染により伝播するが,便中にウイルスが排泄されることからこのルートも感染源となりうる。今回の症例も,3名とも下痢症状が見られた。
一方,千葉県住民のAd7に対する抗体保有状況を調べた。1995年8月に採取された,10〜72歳の10歳ごとの年齢群60検体ずつ,計360検体について中和抗体を測定した。抗体保有率(4倍スクリーニング)は,10〜40歳群で陽性者はみられず,41〜50歳群で7/60(12%),51〜60歳群で11/60(18%),61歳以上で6/60(10%),全体で24/360(6.7%)であった。また,1996年6月に採取した当衛研職員29名の血清では,40歳以上で陽性者がみられ,保有率は9/29(21%)であった。また,今回の分離株を用いた中和抗体保有率もほぼ同様の結果が得られた。Ad7に対する抗体を若年層ではほとんど持っておらず,高年齢層でも10〜20%の保有率であった。以上の結果から,本県におけるAd7の浸淫度は極めて低いと思われる。今後も,本ウイルスの動向に注目する必要がある。
千葉県衛生研究所 篠崎邦子 山中隆也 小川知子 時枝正吉
国立療養所下志津病院 青柳正彦
図1 3兄弟の発熱期間
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