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Vol.17 (1996/11[201])

<国内情報>
腸管出血性大腸菌O26:H11による集団感染例について−富山県


 平成8年8月8日,高岡保健所管内の病院で腹痛,血性軟便を呈した2歳の男児より市販病原性大腸菌O26抗血清に凝集する大腸菌を分離した。分離菌株はVero毒素(VT1)産生性大腸菌O26と同定された。厚生省はその3日前,O157をはじめとするVero毒素産生性大腸菌感染症を伝染病予防法に基づく指定伝染病と指定したことから,本例は指定伝染病としての防疫措置がとられた。

 市役所では9日および15日に患者が通園するS保育園の消毒を行い,S保育園では12日からの約1週間,父兄の自発的意志により登園自粛の措置がとられた。また,保健所では,関係者の検便と疫学調査,衛研では検食と分離菌の検査を主に行った。S保育園には,職員が17名おり,0〜5歳児139名が年齢別に6クラスに分けて保育され,患者はあひる組(1〜2歳児,31名)に在籍していた。保健所が第1回目の検便を8月9〜12日に,園児139名,職員17名,家族2名,計158名を対象に,マッコンキー培地を使用し,大腸菌を1人当たり5〜6コロニーを調べる方法で実施したところ,新たに3名からO26を検出し,続いて行った第2回目の検便では,さらに4名が陽性となった。最終的に陽性となった8名のうち6名はいずれもあひる組で,残る2名は二次感染と思われる患者家族であった。菌陽性8名のうち,初発の1名には血便を認めたが,他の5名には1〜2回の下痢および37.5〜38℃の発熱を認めたのみであり,残りの2名は無症状であった。菌陽性者には医師より抗生物質(主に,ホスミシンDS)が投与され,投与開始6〜18日後に,大腸菌O26陰性を確認した。

 原因究明のため,保育園の冷凍庫に保存されていた7月26日からの2週間分の食品42品目を検査したところ,メロンとキュウリの酢の物が大腸菌群陽性であったが,市販血清に凝集する大腸菌ではなかった。他に,据え付けのウォータークーラー1件,調理場,手洗い所のふきとり30件の検査を行ったが,O26を認めず,また飲料水(上水道)も飲用適であった。

 患者由来大腸菌O26菌株の鞭毛抗原はすべてH11であり,一般的な大腸菌の生化学性状を示し,抗生物質TC,CP,KM,GM,CL,NA,ABPC,NFLX,FOMに感受性であった。また,Xba 1処理後の染色体DNAのパルスフィールド電気泳動像はすべて同様であった。PCR法でVT1陽性,VT2陰性を確認し,CAYE培地で培養し,RPLA法で測定すると4〜32ng/mlのVT1を産生した。

 患者はあひる組のみに集中しており,検食およびふきとりで原因菌は検出されなかったことから,原因は給食とは考えられなかった。これに対して,あひる組園児は原則として,おむつをしており,園の構造上,他のクラスとの交流は少ないが,クラス内での接触は多いことから,家族を含め,多くは接触によって感染したものと推定した。

 今回の集団発生例では,岡山や堺市で発生したO157食中毒でみられるような重症患者はみられなかった。このことより,O26とO157の病原因子の差について,また,VT1単独産生性大腸菌O26:H11が今後も,指定伝染病であることが適当かどうか等について今後,解決すべき問題が多いと考えられた。



富山県衛生研究所 刑部陽宅 平田清久
高岡保健所 尾崎一郎





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