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Vol.17 (1996/11[201])

<国内情報>
死者の発生をみたSalmonella Enteritidisの食中毒事例について−東京都


 1996年4月,東京都内においてSalmonella Enteritidis(以下SEと略)による家庭内の食中毒事件が発生,家族4人全員が発症し,うち1名(14歳男性)が死亡した。

 4月11日午前6時〜11時にかけて,両親と長女,長男の一家4名が食中毒症状を呈した。症状は,下痢(10回〜数10回),吐気,腹痛,発熱(4名中2名は38℃以上)であった。翌12日は家族4名全員が自宅に寝込んでいた。同日午後9時過ぎに母親が長男の異常に気付き救急車を呼んだが,すでに死亡していた。遺体は行政解剖され,血液や胃・腸管内容物の計7検体が当研究所に搬入され,全検体からSEが純培養状に検出された。また,両親の糞便,家庭内のふきとりなどからもSEが検出された。

 分離されたSEは,全株がファージ型1型,プラスミドプロファイルは60kb単独,薬剤耐性パターンはストレプトマイシン単独耐性で一致した。この事例は,4名の発病時間が集中しており(5時間の間に全員発病),この家族以外の関係者に発病者がなく,細菌学的な成績などから,本食中毒は家族に共通した食事により発生したものと推定された。

 原因食品として,4名の共通食と潜伏時間から,4月10日の夕食として喫食した「ニラ卵炒め」と「納豆と生卵」が疑われたが,これらの食品は残っておらず,原因食を特定できなかった。「ニラ卵炒め」と「納豆と生卵」は,いずれも家庭内で調理後,直ちに喫食されていた。しかし,「ニラ卵炒め」の卵は半熟状態の加熱であり,また使用された鶏卵は,殻が1cm程度欠けて中身がこぼれそうなので茶碗に入れ,室温に一晩放置されていたことが後の調査で判明した。仮にこの鶏卵がSEに汚染されていたとしたら,一晩放置中に菌が増殖した可能性も考えられる。購入先の鶏卵についても検査を行ったが,いずれからもサルモネラは検出されなかった。また,同様の食中毒発生の届け出は他にはなく,使用水(タンク水)も病原菌陰性であった。

 さらに,ふきとり検査の結果,家庭内の台所および調理器具などが,広範囲にSEに汚染されていたことが判明した。汚染された環境のなかでSEが増えた結果,このような食中毒が起こってしまったのか,あるいは発病後,施設が汚染されたのかは不明である。

 死亡した長男は,日頃極めて健康であり,発病前にも特に異常は認められなかった。

 今回の食中毒事件では原因食品は特定できなかったが,SE食中毒の主な原因食品には生卵入りとろろ汁,加熱不十分な卵料理やケーキなど,汚染された鶏卵によることが指摘されている。二度とこのような事件がおこらないよう,継続的な卵の汚染実態調査を含めた,より徹底した食中毒の予防対策およびSE食中毒の動向についてさらなる監視を続ける必要がある。



東京都立衛生研究所・細菌第一研究科
只野敬子 甲斐明美 楠  淳 五十嵐英夫 太田建爾 伊藤 武





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