症状および検査結果に基づいて感染症法による5類感染症の発生届が提出されたのは、最終的に男性17名(年齢:20〜50代)であった(表1)。いずれも最近の海外渡航歴は認められなかった。このうち3名は自宅通勤者であった。他の14名は事業所近郊の宿泊施設(計10カ所)に滞在し通勤していた。2名は道内在住者で、残りの12名は道外からの赴任者であった。このうち潜伏期間内(12〜23日)1)に赴任した者は、No.1、4および11の3名であった。第一例目はNo.1(5月9日発症)であったが、5月11〜16日までの間に連日発症者を認めたため、潜伏期間を考慮するとNo.1、4および11を含む複数が同時期に感染した可能性が高いと考えられた。5月9〜16日の間に発症した11名の滞在先は計8カ所あり、共通の接点と考えられたのは事業所のみであった。
風疹ウイルスの排泄期間は、一般に発疹出現の前後1週間とされる1) 。発疹の出現が最も早かった発症者はNo.1で、5月13日であった。従って、5月16日までの発症者(No.1〜11)は一次感染者であると思われた。5月19日以降の発症者(No.12 〜17)は、二次感染の可能性も考えられた。5月28日発症のNo.16は、5月13、14および15日の発症者(No.4、6および9)と同じ宿泊施設に滞在していたことから、事業所の他に宿泊施設も既感染者との接点になると考えられた。なお、この期間、北海道では本事例以外に風疹疑い症例の報告はなかった。
予防接種歴に関しては、発症者17名のうち「無し」が4名、「不明」が12名で、認められたのは1名(No.16)のみであった。わが国では、1994年に予防接種法が改正されるまで風疹の定期予防接種は女子中学生のみを対象に行っていた。そのため、成人男性に感受性者が多いことが特徴とされる2) 。本事例における発症者は、急性期に抗IgG 抗体陰性者が多く、風疹に対する免疫がなかった可能性が強く示唆された。また、抗IgM抗体については、陰性であった7検体のうち少なくとも5検体は発疹出現日に採取された検体であり、この時期はEIA 法のみでは感染の判定が困難な場合もあると考えられた3) 。
6月1日以降、北海道における風疹の新規届出(8月1日現在)はない。しかし、風疹は、不顕性感染が20〜50%あるともいわれる1) 。さらに、妊婦が罹患すると初感染・再感染にかかわらず先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome; CRS)をもたらす1,4,5) 。今後、予防接種およびサーベイランスの充実がより重要になると考えられた。
謝辞:本報告にあたり、ご協力いただきました医療機関の皆様および国立感染症研究所ウイルス第三部・森嘉生先生に深謝いたします。
参考文献
1) CDC, MMWR Recomm Rep 50(RR12): 1-23, 2001
2)年齢/年齢群別の風疹抗体保有状況, 2010年(2011年3月現在暫定値)
(http://idsc.nih.go.jp/yosoku/Rubella/Serum-R2010.html)
3) Abernathy E, et al ., J Clin Microbiol 47: 182-188, 2009
4)牛田美幸, 他, IASR 21: 6-7, 2000
5) Miller E, et al ., Lancet 2: 781-784, 1982
北海道立衛生研究所
三好正浩 駒込理佳 長野秀樹 高橋健一 岡野素彦
北海道後志総合振興局保健環境部岩内地域保健室(北海道岩内保健所)
小場 宏 金子由美子 渡邉康子 鈴木文彰 廣島 孝
北海道十勝総合振興局保健環境部保健福祉室(北海道帯広保健所) 相田一郎
北海道石狩振興局保健環境部環境生活課 北村さやか
北海道保健福祉部健康安全局 佐治尚介 山口 亮