発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(第43号「速報」参照)。
〈第32週コメント〉8月12日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ 2例(推定感染地域:国内1例、フィリピン1例)
細菌性赤痢14例(推定感染地域:国内1例、インド3例、インドネシア2例、
フィリピン2例、タイ2例、中国1例、カンボジア/ベトナム1
例、モロッコ1例、マリ1例)
腸チフス 1例(推定感染地域:フィリピン)
パラチフス 1例(推定感染地域:インドネシア) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 190例(うち有症者116例)
報告の多い都道府県:宮城県(21例)、岡山県(14例)、東京都(13例)、
福岡県(12例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(75例)、O26 VT1(61例)、O157 VT2
(25例)、O157 VT1 (4例)、O26 VT2 (1例)、O111 VT1 (1例)、
O103 VT1(1例)、その他(22例)
年齢:10歳未満(90例)、10代(30例)、20代(23例)、30代(19例)、40代(6
例)、50代(9例)、60代(6例)、70歳以上(7例) |
4類感染症: |
デング熱 3例(推定感染地域:ミャンマー、インドネシア、フィリピン)
日本紅斑熱 1例(高知県、死亡)
レジオネラ症 2例(59歳、69歳) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 3例(推定感染地域:国内1例、不明2例. 推定感染経路:経口感染1例、不明2例)
ウイルス性肝炎 4例(いずれもB型_推定感染経路:いずれも不明)
後天性免疫不全症候群 14例(無症候7例、AIDS 5例、その他2例)
推定感染経路:性的接触12例(異性間5例、同性間6例、異性間・同性
間1例)、不明1例、その他1例
推定感染地域:国内10例、タイ2例、不明2例
梅毒 4例(早期顕症I期1例、無症候3例)
破傷風 1例(71歳) (補)他に、つつが虫病1例、ライム病1例、クロイツフェルト・ヤコブ病1例の報告があった が、削除予定。また、報告遅れとして急性脳炎3例〔いずれも病原体不明(1歳、5歳、20歳)〕の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第11週から増加傾向が認められ、第25週には過去10年間の全ての週と比較して最高値となった。その後も第29週まで最高値を更新 し続けたが、第30週からは減少している。しかし相変わらず、過去10年間の当該週と比較して 最高値を示しており、都道府県別では福井県(2.4)、北海道(1.6)が多い。A群溶血性レンサ球 菌咽頭炎の定点当たり報告数は第23週から減少し続けているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多く、都道府県別では大分県(1.8)、富山県(1.3)、沖縄県(1.2)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第12週から減少傾向が続いた後、第31週からは ほぼ横ばいで推移している。過去5年間の同時期と比較してやや多く、都道府県別では福井県 (7.8)、鳥取県(6.0)、大分県(5.3)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第20週から第29週 まで緩やかに増加し続けた後、第30週からほぼ横ばいで推移している。都道府県別では大分 県(4.9)、北海道(4.0)、長野県(3.5)が多い。風しんの定点当たり報告数は前週と同値で、都道 府県別では19都府県から報告があったが、いずれも0.1以下であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は、第26週を除き、第20週から第29週まで増加し続けたが、第30週からは減少し ている。都道府県別では秋田県(5.7)、富山県(5.4)が多い。麻しんの定点当たり報告数は前週と同値で、第1週から継続して、過去10年間の当該週と比較して最低値を示している。14都道府県から報告があったが、いずれも0.1以下であった。RSウイルス感染症はゼロ報告を含めて 31都道府県から報告がなされ、報告数は合計43例であった。
基幹定点報告疾患:無菌性髄膜炎の定点当たり報告数は第20週から緩やかな増加傾向が認 められていたが、第32週は減少した。都道府県別では滋賀県(0.6)が多い。マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は第20週から増加傾向が認められた後、第25週をピークに減少傾向が認められており、第32週も減少した。都道府県別では秋田県(1.1)が多い。
注目すべき感染症
◆ 腸管出血性大腸菌感染症
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図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別週別発生状況 |
図2. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原 体保有者含む)の都道府県別発生状況 (2004年第1〜32週の累積) |
図3. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原 体保有者含む)の都道府県別発生状況 (2004年第32週のみ) |
腸管出血性大腸菌感染症は感染症法に基づく3類感染症として、患者または無症状病原体
保有者について、診断した医師は届け出が義務づけられている。無症状病原体保有者は、食
品産業従事者の定期的検便によって偶然発見される場合もあるが、探知された患者と食事を
共にした者や接触者の調査などによって発見される場合が多い。
2004年第32週の現段階での報告数は190例で、1週間の報告数としては第29週(213例)、第 31週(211例)に次いで多かった(図1)。また、第32週までの累積報告数は1,873例で、過去3年 間の同週までの累積報告数(2001年2,779例、2002年1,924例、2003年1,269例)と比較すると 2002年の状況に近い。第32週までの累積報告数を都道府県別にみると、石川県(156例)、東京都(153例)、大阪府(126例)、岡山県(121例)が多い(図2)。第32週に限ると、宮城県(21例)、 岡山県(14例)、東京都(13例)、福岡県(12例)が多く(図3)、報告の多くは家庭内感染を含む 散発事例であるが、宮城県からの報告の多くは、保育所でのO26 VT1による集団発生に関連 したものであった。
第31週までの累積報告数を血清型・毒素型別にみると、O157 VT1・VT2 633例(34%)、 O157 VT2 418例(22%)、O26 VT1 346例(18%)の順に多い。また、年齢群別(0〜69歳までは 10歳毎、および70歳以上)にみると、10歳未満740例、10代336例、20代259例、30代151例、40 代98例、50代120例、60代80例、70歳以上89例となっている。
溶血性尿毒症症候群(HUS)は第32週に1例報告があり、2004年の累積で26例となった。そ
れらの原因菌の血清型・毒素型別では、O157 VT2(13例)、O157 VT1・VT2(9例)、O26
VT1・VT2(2例)、その他2例であった。また、年齢群別では10歳以下が19例(うち、5歳以下は
16例)、10代1例、60代1例、70歳以上5例であった。性別では男性8例、女性18例と女性に多
かった。また、第30週に報告された症例について、第32週に死亡が報告され、本年報告され
ている死亡例は2例(70代女性、2歳女性)となった。死亡例やHUSの合併については、届け出
時点以降での発生が十分反映されていない可能性があり、このような発生があった場合には
「入力時のお願い」として、修正報告することをお願いしている。
例年報告のピークは夏季にあるので、一層の注意が必要である。また、本年においても、保 育所などに関連した集団発生の報告が散見されている。保育所などでの人から人への感染を 防ぐために、タオルの共用を避けることや、普段からの手洗い(特にオムツ交換時)、園児への 排便後・食事前の手洗い指導を徹底することが重要である。さらに、夏季には簡易プールなど の衛生管理にも注意を払う必要がある。
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