〈7月コメント〉
◆性感染症について 2004年8月10日集計分 性感染症定点数:921
2004年7月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が3.87(男1.65、女2.22)、 性器ヘルペスウイルス感染症が0.92(男0.36、女0.57)、尖圭コンジローマが0.67(男0.35、女 0.33)、淋菌感染症が1.78(男1.44、女0.34)で、4疾患のうち、男性では性器クラミジア感染症お よび淋菌感染症、女性では性器クラミジア感染症が多かった(図1)。女性の性器ヘルペスウイ ルス感染症を除くと、前月に比べ、増加または横ばいである。(「グラフ総覧」参照)。 過去5年間の同時期と比較すると、尖圭コンジローマが男女で、および性器ヘルペスウイルス感 染症が女性で、平均+2標準偏差(SD)を越えた。一方、性器ヘルペスウイルス感染症が男性で は平均+1SD下回った(図2)。
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定点当たり報告数を年齢階級別・男女別に比較すると、いずれの疾患でもピークは20〜29歳にあったが、性器ヘルペスウイルス感染症では50代以降の高年齢層からの報告も少なくない(図3:PDF参照)。淋菌感染症では男性の占める割合が高いが、他の3疾患では若年齢層で女性の報告 者数の方が多い。
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年齢層(15〜29歳)での各性感染症の定点当たり報告数を月別・男女別に図4(PDF参照)に示した。7月の報告では、性器クラミジア感染症および 淋菌感染症が男女ともに増加している。
注:本発生動向調査で得られる性感染症患者報告数および解析結果は、現在の定点の構成に基づく制限のもとに解釈される必要がある。詳細はIDWR 週報2000年第46号(10月報)4ページの記載を参照されたい。
◆薬剤耐性菌について (8月10日集計分)
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7月の基幹定点総数:
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469.
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[定点当たり報告数]
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
3.76(前月:3.93、前年同月:3.93) 月別には年間を通してほぼ一定の報告数で、年別には微増傾向が認められている。7月の定点当たり報告数は微減したが、過去5年間の同月 との比較では、過去2年間に次いで多かった。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
0.84(前月:1.33、前年同月:0.96) 過去には、春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く推移していたが、2004年は1月から6月までほぼ一定の報告数で推移した。 しかし、7月の定点当たり報告数は過去と同様 に減少を示し、過去5年間の同月との比較では、過去3年間より少なかった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.14(前月:0.12、前年同月:0.15) 年間を通じてほぼ一定の報告数である。7月の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同月 との比較では、2003年、1999年に次いで多かった。
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[年齢階級別]
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MRSA感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の
69%(70歳以上が60%)を占めている。
PRSP感染症
小児に多く、10歳未満が全体の66%(5歳未満が58%)を占めている。また高齢者
にも多く、65歳以上が全体の19%(70歳以上が15%)を占めている。
薬剤耐性緑膿菌感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の68%(70歳以上が62%)を占めている。
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[性別:女性を1 として算出した男/女比]
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MRSA感染症…1.7/1
PRSP感染症…1.3/1
薬剤耐性緑膿菌感染症…1.2/1
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[都道府県別]
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MRSA感染症
定点当たり報告数は富山県(8.4)、奈良県(8.0)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は千葉県(7.4)、富山県(4.4)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
定点当たり報告数は宮城県(0.8)、岩手県(0.5)、香川県(0.5)が多い。
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◆結核サーベイランス月報 8月25日集計分
7月の新登録患者数は2,742人(男性1,727人、女性1,015人)で、このうち活動性肺結核患者は
2,206人(うち喀痰塗抹陽性者は1,027人)であった。
都道府県・政令指定都市別の新登録患者数は、東京都(309人)、大阪府〔大阪市を除く〕
(180人)、大阪市(169人)、千葉県〔千葉市を除く〕(121人)、埼玉県〔さいたま市を除く〕(114
人)が多い。
また、別掲により集計されているマル初者数*は486人、非定型抗酸菌陽性者数は259人であ った。
*マル初…結核の感染が強く疑われるが発病はしておらず、発病予防のための内服を行っている者。
詳しいコメントは、結核研究所の結核発生動向調査結果報告(http://www.jata.or.jp/tbmr/tbmr. htm )をご覧ください。
注目すべき感染症
◆ 腸管出血性大腸菌感染症
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図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別週別発生状況 |
図2. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原 体保有者含む)の都道府県別発生状況 (2004年第1〜33週の累積) |
図3. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原 体保有者含む)の都道府県別発生状況 (2004年第33週のみ) |
腸管出血性大腸菌感染症は感染症法に基づく3類感染症として、患者または無症状病原体
保有者について、診断した医師は届け出が義務づけられている。無症状病原体保有者は、食
品産業従事者の定期的検便によって偶然発見される場合もあるが、探知された患者と食事を
共にした者や接触者の調査などによって発見される場合が多い。
2004年第33週の現段階での報告数は201例で、1週間の報告数としては第29、31、32週に次 いで多かった(図1)。また、第33週までの累積報告数は2,096例で、過去3年間の同週までの累 積報告数(2001年3,033例、2002年2,175例、2003年1,352例)と比較すると、2002年の状況に近 い。第33週までの累積報告数を都道府県別にみると、東京都(166例)、石川県(160例)、大阪 府(131例)、岡山県(131例)が多い(図2)。第33週に限ると、三重県(28例)、神奈川県(16例)、 宮城県(14例)、群馬県(14例)が多く(図3)、報告の多くは家庭内感染を含む散発事例である が、三重県、神奈川県、宮城県からの報告の多くは、いずれも保育所での集団発生に関連した ものであった。
第33週までの累積報告数を血清型・毒素型別にみると、O157 VT1・VT2 707例(34%)、 O157 VT2 486例(23%)、O26 VT1 416例(20%)の順に多い。また、年齢群別(0〜69歳までは 10歳毎、および70歳以上)にみると、10歳未満847例、10代356例、20代278例、30代186例、40 代115例、50代126例、60代89例、70歳以上99例となっている。
溶血性尿毒症症候群(HUS)は第33週に3例報告があり、本年の累積は29例となった。それ
らの原因菌の血清型・毒素型別では、O157 VT2(15例)、O157 VT1・VT2(9例)、O26 VT1・
VT2(2例)、O111VT1・VT2(1例)、その他2例であった。また、年齢群別では10歳以下が22例
(うち、5歳以下は18例)、10代1例、60代1例、70歳以上5例であった。性別では男性9例、女性
20例と女性に多かった。また、死亡例は第33週に1例報告され、本年報告されている死亡例は
3例(70代女性、2歳女性、3歳女性)となったが、原因菌の血清型・毒素型はそれぞれO157
VT1・VT2、O26 VT1・VT2、O111 VT1・VT2であった。死亡例やHUSの合併については、届
け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があり、このような発生があった場合
には「入力時のお願い」として、修正報告することをお願いしている。
例年報告のピークは夏季にあるので、一層の注意が必要である。また、本年においても、保
育所などに関連した集団発生の報告が散見されている。保育所などでの人から人への感染を
防ぐために、タオルの共用を避けることや、普段からの手洗い(特にオムツ交換時)、園児への
排便後・食事前の手洗い指導を徹底することが重要である。さらに、夏季には簡易プールなど
の衛生管理にも注意を払う必要がある。
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